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2013年06月04日

●続時計の小話・第117話(大阪のCMWの会合にて)

3月30日、大阪博労町の難波神社会議室で午後2時~午後5時まで3時間に渡り関西地区のCMWの会合がありました。 参加CMWは末和海会長,冨田實氏、東條勝利氏、山内泰之氏、牧野敏夫氏、玉田寿夫氏、池宮俊二氏、 上村五男氏、大石直廣氏、藤田幸治氏、井上明廣氏、小生が集合しました。

2012年11/26に末和海先生(第一回CMW取得者、『標準時計技術読本』の翻訳者であり、 『脱進機修理の秘訣、ひげぜんまい取扱の秘訣、時計の歩度調整』の著者でもあります。 またアキシャル・マイクロメーターの考案者であり、脱進機のスジカイ試験の発案者でもあり、 過去に日本時計師会の会長も務められた、時計技術界の重鎮でおられます。)が 『わが国時計技術技能の将来を考える会』を興されまして、CMW試験再開の為に各地のCMWの意見を聞き、 これまで東京、大阪、名古屋を回って大変な尽力をされてきました。

末先生がそのような行動を取られました理由は日本時計修理業界に於けるメカ式腕時計の修理技術能力の著しい低下が原因です。 2011年度スイス腕時計の日本に輸入金額が3,400億円を超えています。その殆どは高級メカ式腕時計です。

日本に輸入されたスイスメカ式高級腕時計の修理の大多数は、輸入元オフィシャルサービスに任せっぱなしの酷い現状を 憂いての為でした。現在ではスイス高級腕時計・国産メカ式高級腕時計(GS,ザ・シチズン)を 販売はするが修理は一切出来ない時計店が大半を占めるようになりました。

30数年以上前には販売した時計は自店で修理するのが当然の当たり前の事でしたし、 それが店の信用にもなって店主は一生懸命技術の取得に頑張ったものでした。しかし今日ではどうなのでしょうか? グランドセイコーでさえ今やメーカーサービス送りになっている現状です。 国産時計メーカーも時計店の技術を見限って新製品の技術講習会を一切開かなくなりましたし、 高級腕時計のパーツも時計店に供給しなくなりました。ここで奮起しないわけにはいかないと思うのです。

さらに昨年度国家技能検定試験において試験教材にメカ式腕時計を採用した途端、極端に合格率が大きくダウンしたことも 大きな理由の一つでもあった訳です。

現在行なわれている時計修理資格試験は3つに分類されます。国家検定時計修理技能士試験(1,2,3級) SIIセイコーインスツル主催いわて機械時計技能評価試験(IWマイスター、1級、2級)、 信州匠の時計修理士試験(特級、A級、1,2,3級 の5等級)等の多種多様の資格が存在しており第三者が客観的に技術・技能を 評価しにくい煩雑な状況を呈しています。

このような状況を打破するためには時計技術資格では最古の歴史・伝統があり実績を積み上げてきて多くの『現代の名工』 ・名人クラスの時計職人を輩出してきたCMW試験を再開するべきだと思われたものです。

また技術を継承して優秀な後継者を各地に育て上げることも眼目であります。

そして末先生は各地を回り意見を集約して新日本時計師会(仮称)N.J.W.I発足の為の素案を各地の主だったCMWに提案されました。 2013年1月10日、2月20日、3月14日と3日間、3回に渡り、東京上野のK時計サービスを会場にして、 全国からCMWが集結して午後3時~午後6時ごろまで延10時間以上に渡り、CMW試験再開の為に建設的な討論が成されました。

そのメンバーには末和海先生、宅間三千男氏、高橋新造氏、平石護氏、加藤實氏、木下猛氏、 桑名才次氏、、小生,山田喜久男氏、池宮俊二氏、玉田寿夫氏。東條勝利氏の12名(全員CMW、合格年代順)が 時間の許す範囲内で集合して意見を交わしあいました。

3回の会合で、下記の内容が素案として出されました。

[1] CMW試験を再興する為には、日本時計師会の役員組織を早急に決める必要があるとの結論に達し、 約30年前の日本時計師会の旧体制をすぐに構築出来る訳は無いので、 当初は動きやすい軽い組織にすべきとの結論に達し本部は歴史のある大阪に設置することが妥当ではないかという考えになりました。

トップの会長,それを補佐する副会長を2名、CMW試験委員長を1名、理事を5名程、他のCMW資格者は支援委員とする。 軌道に乗るまで、監事及び幹事は、選出しないとする。支部長は5人ほど任命する(北海道地区東北地区、関東地区、 中部北陸地区、近畿地区、中国四国九州沖縄地区)

[2] 3回目の会合で末和海先生を会長(CMW試験を権威付ける為にも時計業界で著名であり功労者である末先生をトップに据えるのが 誰もが異論の無い事と思われます。 CMW資格証明書に会長・末和海先生の名の入った認定証を受験生も欲するものと推察されます)にする事が満場一致で決定しました。
役員人事に対しては選任された末先生に一任するべきではないかと思われます。他のCMWは支援委員として、 会長によって指名された役員を協力し補佐をする。日本時計師会の諸活動は基本スタンスはボランティアとする。

[3] CMW試験が来年度、施行させることを時計技術者に周知徹底するために、日本時計師会のホームページを早急に立ち上げる。 CMWを目指す受験生に、事細かな情報を(試験講習会、試験日時、試験詳細内容等)をホームページを 通じて知らせることが会合で決められました。またCMW試験が日本で行なわれる最高峰の難度の高い時計高等技術試験である事を 広報する。

[4] 組織を立ち上げた場合、何かと必要経費が多々生じる状況場面が起こるものと思われます資金ショートしない為、 出金が容易に出来るようにする為にCMW有志から出資金(賛助金)を集める事とする。

[5] CMW受験生を応募したら、試験内容が難解過ぎて人がほとんど集まらなかったという悲惨な事が起きない為にも試験前に 講習会等を開いてやる気のある時計技術者が受験準備しやすい環境・雰囲気を作ってあげるべきと思われる。

マスメディアにも働きかけアプローチする。試験内容は35年前の程度と同等とし、あえてそれ以上の難易度を高めすぎた場合、 CMW試験を敬遠される可能性があると思われ、試験内容は充分に吟味するべきだと思われます。 当初、2、3年は試験会場は人材が揃っておられる東京・大阪のみとし、話を詰めていくという事になりました。

[6] 試験教材にクォーツクロノグラフムーブメントの提案もありましたが、CMW実技試験はメカ式 (一例、懐中時計ユニタスCal,6497天真別作等0H調整、クロノグラフ腕時計バルジューCal,7750) に特化するべきだという意見にまとまりました。1975年度よりCMW実技試験にクォーツを 試験教材採用したことによりCMW試験制度自体が弱体化していって消滅したことを鑑み、 安易に試験教材にクォーツは採用すべきではないとの結論に達しました。

[7] 将来的には日本時計師会は総務部(会計担当)、出版部(機関紙・『調時』発行)、研修・研究部、CMW試験委員会等を 順次必要に応じて作り上げていく。早急に作るのは総務部、CMW試験委員会、日本時計師会ホームページ作製部等が必要と思われます。

[8] CMW試験は過去の試験内容を出来るだけ踏襲することとする。
一次試験
1日目 学科試験 250問題 5時間(問題集作成者を募る)
2日目 旋盤作業(天真、巻真別作)6時間

二次試験
1日目~3日間 (各8時間、計24時間)
一案
・懐中時計ユニタスCal,6497天真別作、アンクル真折れ等0H調整、5姿勢平均日差-2~+10以内精度要求。
・クロノグラフ腕時計バルジューCal,7750、0H調整かもしくはETA2824もしくはETA2892のOH調整かを選択する。 5姿勢平均日差-2~+10以内精度要求

受験費用は試験教材を日本輸入元と交渉して安く入手して200,000円以内になるようにする。 受験費用はできるだけ抑える。(オーバーした場合は受験生に対して日本時計師会が補填すると言う意見もありました。)

CMW試験が来年に開催されることに目処がつきましたので、向学心に燃える時計技術者には 受験するように、今から更に上を目指して研鑽を励まれることを願っています。

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