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2008年07月19日

●続時計の小話・第87話(新作IWCインヂュニアのOH)

2005年に見事に復活を為しえた、IWCの人気シリーズ『インヂュニア・オートマチック』の修理依頼を受け、先日修理が完了しました。

IWCファンから根強い人気のある、インヂュニア(技術者)は1954年に登場以来、超耐磁性を持った腕時計として、衆目を集めてきました。

ファーストモデルの、インヂュニア(Cal.852、8521(カレンダー日付付き))は、ペラトン巻き上げ機構を装備した、効率の良い自動巻で、ムーブメントも当時のロレックス社のムーブメントと比較しても優るとも劣らない、非常に精度の出る最高峰の腕時計でした。勿論、ヒゲゼンマイはロレックスと同様にブレゲヒゲを採用していました。

今回、50年目に自社製作のムーブメントを搭載した、インヂュニアをオーバーホールするにあたり、以前よりIWCファンであった小生は、胸を時めかせてワクワクしながら、作業に入りました。今回復活した、インヂュニアもペラトンシステムの両方向巻き上げシステムを踏襲しており、旧キャリバー8521よりも、自動巻き上げ機構は改良されている、という認識を新たにしました。

ヒゲゼンマイは平ヒゲで、IWCの伝統らしく、ヒゲゼンマイの外端曲線が完璧な程に形成されていて、ヒゲ棒アガキも僅かな一条の光が入る程度の繊細な狭量でした。

カレンダー瞬間早送り機構も僅かな部品数4個のみで作られていて、これほどまでに部品数を抑え簡略化された瞬間早送り機構を見たのは初めてで、IWCの設計技術者の頭脳の明晰さが、良く解りました。(現行グランドセイコー・メカ式も以前のGSのようにカレンダー瞬間早送り機構に改良変更すべきだと痛感しました。現行GSはパーツ数が多すぎるのが欠点と言えなくはないでしょうか?)

時計専門誌等で、復活インヂュニアのCal.80110は、『完全自社製ムーブメント』と聞き及んでおりましたので、自動巻機構以外の、手巻き駆動、輪列部分がどの様な設計されたムーブメントか期待しておりましたが、分解して解った事ですが、ETA7750クロノグラフムーブメントの手巻き輪列・地板部分を基礎利用し改良して採用している事に少々驚かされました。雑誌に紹介されていたような完璧なまでの自社製ムーブメントとは言えないのかも知れません。

インヂュニアCal.80110にETA7750クロノグラフムーブメントを一部採用していることはETA.Cal.7750が非常に優れたムーブメントである証明でしょう。

人気のある、マーク15等もETA社製Cal.2892A2を採用しており、今回の新作インヂュニアCal.80110も、基礎ムーブメントの部分をETA7750のムーブメントを改良して使用している事に、ETA社とIWC社の密接な関係を知る事が出来ました。

IWC社に限らず、ほとんどのスイスの時計メーカーは、ETA社から、多かれ少なかれ多大な影響を受けているのではないか?と今回のオーバーホールでつくづく思い知らされました。Cal.80110はIWCらしく、どっしりとした重厚的なムーブメントに仕上がっており、残念な面も少しありましたが、IWCファンを裏切らないムーブメントで安心致しました。