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2009年02月24日

●続時計の小話・第98話(キングセイコークォーツのOH)

先月、宮城県M町Y様から、お父様が約30年前に買われたキングセイコークォーツ腕時計(Cal,5856A 8石 32,768Hz ムーブメント25,6mm 3,4mm トリマコンデンサ緩急方式採用 1977年諏訪精工舎製)
の止まって不良の修理依頼を受けました。

30年以上も前の水晶腕時計の修理の依頼の場合、注意しなければならない厄介な事があります。
正確に分解・洗浄・組立・注油しても電子部品の不良のために全く作動しない場合があるのです。
そうなるとそれまでの修理作業が全くの徒労に帰してしまいます。
よって古いクォーツの修理依頼の場合は洗浄する前に分解途中で、回路ブロックの導通点検やコイルブロックの断線点検等々、電子部品の点検をまずしなければなりません。
電子部品が正常である、という確認後に地板や輪列歯車の分解洗浄を行います。

20年以上前のクォーツ腕時計の場合、電子部品はメーカーも既に在庫を持っていないので、電子部品が、不具合・不良の場合は時計の寿命が尽きてしまい、もはや修理する事は不可能となります。このキングセイコークォーツは、各電子部品が正常でしたので、分解・洗浄・組立・注油へと作業が順調に進みました。

作業の結果、このCal,5856Aは、非常に優れた機能を持ったムーブメントである事が解りました。

リューズ一段目で秒修正装置がついており、リューズ左回りで『1クリック』するだけで+2秒進む事が出来、リューズ右回り『1クリック』だけで-2秒の簡単な秒調整が出来る仕組みになっています。
その仕組みは秒修正カムが秒修正リードピンに接触した場合、回路ブロックから一秒間に2回電子信号が出て、秒針を2秒進ませたり遅らせたり出来る様になっています。

組立調整時には、秒躍制レバーの調整が非常に難しい点があります。60倍の双眼顕微鏡を用いて、『4番車の歯』と『秒躍制レバーの爪』とが隙間無く確実に接触している様に秒躍制レバーのネジを回して調整をしなければなりません。

現代では、クォーツのステップモーターや輪列車はプラスチック樹脂を使用しているのが当たり前ですが、30年前以上の高級クォーツには、メカ式の歯車と同じ様に金属で作られており堅牢でした。

このキングセイコークォーツは、音叉腕時計と同様の繊細な修理作業が必要ですが現行のクォーツではこういう面倒な作業はほとんど無くなり、容易くオーバーホール修理が出来る様になり、時計職人にとっては時計電子技術の進歩のおかげでクォーツ修理作業が楽になったと言えます。