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2009年02月03日

●続時計の小話・第97話(セイコー・スポーツマチック5の修理)

昨年、11月末に大阪府S市のY様から
1966年諏訪精工舎製セイコー・スポーツマチック5
21石 5振動(Cal.6619A ムーブメント直径28.1mm 厚さ6.4mm 新品時の社内精度基準Dクラス・日差-20~+35秒) デイデイト付きのオーバーホールのご依頼を受けました。

この時計は、Y様のお父様が若い頃、使用されていた時計で、今では使われていない眠っている状態で、修理してお父様をおそらく喜ばせてあげたい、という気持ちが伝わるメールが弊店に届きました。完全に停止していた状態でしたので、分解しながら原因を調べておりましたが、テンプの振り座についている『振り石』が飛んで外れている状態でした。非常に小さなパーツなので、慎重にムーブ及びケース内を捜しましたが見つからず、どうしたものかと思案にくれておりました。

もう既に43年以上経過した腕時計ですので、セイコー部品センターには無いのは解りきっていましたし、微かな望みを抱いて弊店取引先の大阪の時計材料店に問い合わせてみましたら、やはり余りにも前の時計なので、部品は見つかりませんでした。もし万が一あったとしても振り石だけを売る、という販売経路は無く、振り石が取り付けられている振り座一式か、またはテンプ一式になるのではないかと思っておりました。

どこからも入手出来そうに無いので、弊店が所持している『セイコー・ウォッチ部品カタログ』を取り出しCal.6619A系のパーツ詳細を調べてみました。Cal.6619Aのテンプ一式部品番号は『310-660』と解りました。セイコー・パーツのテンプは頭の数字が必ず、310-から始まります。(ちなみにガンギ車は251-から始まり、アンクル301-から始まります。)

弊店はセイコー及びシチズンのパーツを時計店としては、日本でおそらくトップ3に入るほど多く持っているのではないかと、自負しておりましたので一応念のために、パーツ整理箱にこのスポーツマチック5のテンプが無いかと探してみました所、なんと在庫として持っている事が解り、大袈裟ですが大変な喜びがありました。

このテンプ一式(テンワ、天真、振り座、振り石、ヒゲ玉、ヒゲゼンマイ、ヒゲ持ち、ヒゲクサビの計8個で構成されています)を0.1gまで正確に計れる重量測定機で計ってみたところ、0.1g以下で、測定不能でした。おそらく0.0Xgだと思われ、テンプが非常に軽いという事が読者の皆様に判って頂けるのではないか、と思います。

トゥールビヨンのテンプ及び脱進機は想像を絶する軽さでないと、上手く作動・機能しないので、機会があればどれ程軽いのか一度計ってみたいと思います。そう言えばグランドセイコーCal,9Sムーブメントの生誕10周年記念限定モデルのムーブには重力の影響を受ける脱進機誤差を少なくする為にアンクル・ガンギ車を極限にまで軽く仕上げ加工しているそうです。

又軽くすることによりテンプへのトルクの伝達効率を良くし、等時性を向上させる意味もあります。
(スケルトン・ウォッチのように余分な贅肉を削って筋肉化しているようです)