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2007年01月22日

●続時計の小話・第20話(小さなネジ)

先日、山形県のH様から修理依頼のアンティーク・キングセイコー手巻き(Cal,44 25石1963年第二精工舎製)のオーバーホールを致しました。

気分のすぐれない時や、時計修理を何となくしたくない時などは、小生はそういう時、何を置いても、セイコー社の修理をするようにしています。根っから、セイコー社の腕時計が好きなので、気分のすぐれない時に、セイコーのムーブメントを見ていると心がなんとなく落ち着き、修理をしたくない気分も飛んでしまい、やる気が出てくるから、不思議なものです。

Hさんからは、約40年程前の初期の頃のキングセイコーで、お話によるとHさんのお祖父様とお父様が愛用されていた、との事でした。約40年前の腕時計なので受け取った時、かなり全体の雰囲気がくたびれていましたが、風防を取替、ケースを磨きましたら見違えるほど、綺麗になり、ほっとしました。セイコーですから当然機械の方もすこぶる元気になり精度も出るようになりました。

SSの方のキングセイコーは予定通り時間内に修理完了しましたが、金メッキの方は、分解する時に三番車が上下にガタガタしており、ホゾが折れているのではないか?と、思いました。過去に初代GSの3番車の下ホゾ入れをしたことがあり、このKSの3番車ももはや入手出来ないものであり、少しやっかいな作業になる、と思いながら分解しました。

分解し終わって日ノ裏側を見てみましたら、3番車の下ホゾの受け石板止めネジが、折れこんでいて、受け石板が外れている状態でした。(当時は輪列受石をダイヤショックバネで留めているのではなく懐中時計のようにオーバル型の板に受石が埋め込められていてネジで留めるやり方でした。)

この受け石板を止める専用ネジも、今ではほとんど見られない、T字型のテーパーがついた非常に小さいネジなので、手持ちのネジでは全く合わず、一番よく似たネジをダイスで少し削ってなんとか合わせました。

わずかな1mmにも満たない小さなネジ一個(ヒゲ持ちネジ程小さくはないのですが)が外れただけで、穴石とホゾの遊びが大きくなり、片方のホゾが穴石から外れて歯車とカナの噛み合いが深くなり、止まった原因と思われます。

たまたまホゾが折れなかったのが、不幸中の幸いと、言えるかもしれません。それにしてもほんの僅かな小さいネジ一個不良で時計は正常に作動しないとは如何に時計が繊細な機械であるか解っていただけたでしょうか?

40年近くも時計使ってきますと、真鍮の歯と噛み合う歯車のスティールのカナが摩耗している時がよく見受けられます。なかなか、昔のものになると新品の輪列歯車等は入手出来ないので、歯車の上下穴石を移動させて、摩耗していないカナと真鍮の歯を噛み合わせるよう、修理調整する場合もあります。この場合も少し面倒な修理作業になります。