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2007年01月22日

●続時計の小話・第19話(現行グランドセイコーの修理)

先日、現行品のグランドセイコーCal.9S55A 26石のオーバーホールを 初めてしました。このCal.9S55Aの機械がGSに搭載され1998年発売されていらい、関心を持ち続けていましたので、胸を時めかしてこの機会に、十分吟味して分解掃除調整を致しました。

GSの自動巻の機械は、Cal.61系、Cal.56系に続いて、 このCal.9S55Aが歴代3代目にあたります。セイコー全盛時代の過去のGSの自動巻は諏訪精工舎(現セイコーエプソン) が全て製作したものですが、今回のこのムーブメントはセイコー・インスツル(旧第二精工舎)が製作したものです。

第二精工舎、と言えばGSの名機と言われるCal.44系と、Cal.45系の手巻きのGSを製造してきました。今回、初めて自動巻のGSのムーブメントをセイコー・インスツルが担当し造った事になります。(婦人用の手巻きのGSも旧第二精工舎・セイコー電子工業が製作したものでした)自動巻機構はCal.61系と同じく効率の良いマジックレバー爪方式を 採用しておりました。

Cal.9S55Aの自動巻ローターを取り外す(3個の窪みに工具を差し込んで緩めて外す方法です)には専用の工具が必要ですので、一般の時計店ではGSを修理をするのはなかなか難しいのではないかと思います。メーカーは一切、時計店にこのGS用工具を供給しないので、この専用の工具を 別作するにも至難のワザが必要になると思います。

分解しながら、思った事は、さすがに、セイコー社が全力を挙げて造ったフラグシップのメカ式時計であると痛感した次第です。とても現時点では、中国の時計メーカーが力を付けてきていると言えども、 全く足下にも及ばない美しい仕上がり、丹精を込めた造りになっていたことです。

ただ、私の感性から言いますと長年過去のGSに親しんできたからでしょうか、 諏訪精工舎が製造したGSの自動巻の方が部品数が極めて少なく 設計されていてパーツ類も大きめなので、アフターケアが容易であるとの感じを 持ちました。

現行のGSは、テンプも過去のGSよりもかなり小型化しており、 慣性モーメントの点から言っても精度の正確さ、安定度の点で若干劣るのではないか?という気がしないでもありません。 (現行GSの携帯精度は日差-1~+10秒とセイコーの仕様書に明記されています。)

また、ヒゲ棒アガキ調整レバーが過去のCal.45系の様なしっかりした造りではなく、少しの衝撃でレバーが動いて、歩度が狂うのではないか?という懸念が無きにしもあらずです。 欲を言えば2秒単位くらいで微細精度調整できるトリオビス・ファイン・アジャストメントのような緩急針か、テン輪にミーンタイムスクリュー、 マイクロステラ(ロレックスやJL社が採用)のようなものを取り付けて欲しかったと思います。

ムーブエメント直径の1/3(28,4mm厚さ5,3mm)近くが、全く使われていない状態なので、今後その空間を利用して、派生的になんらかの機能が付いた 時計が出てくるのではないか?と推察していますがどうでしょうか?

久しぶりに興味と、興奮を持って修理作業が出来た現行GSの修理作業でした。 弊店も今まで、この9S55Aを内蔵したGSをそれなりに販売して参りましたので、 今後の修理作業が、大変楽しみになりました。