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2007年07月09日

●続時計の小話・第62話(『千の風になって』を聞いて)

昨年に大きな話題となり、ヒットした曲に秋山雅史さんが歌っておられる『千の風になって』があります。
小生は、平成18年度のNHK紅白歌合戦で,遅蒔きながらこの歌を初めて聞きました。

メロディも美しく、歌詞がなんとも言えない心を慰める言葉で、歌っておられる秋山雅史さんの音量のある艶やかな声に、時を忘れて聞き惚れてしまいました。それから、何度と無くこの歌を聴くにつれ、何故ゆえこれほどまでに現在の日本人の心の琴線に響き、慰撫されるのか?と考えるようになりました。

当然ながら、目まぐるしい索漠とした社会の中で、過酷な労働条件や人間関係に疲れ果てた人々がこの歌声を聞いて心がどれほど癒されていたか、は想像は出来ます。また不慮の事故や事件により肉親の方の命を奪われたご遺族の方々の心をどれほど励まし、心の支えになった事も充分思いはかれます。

そして、大きく魅了された原因の一つが、遠くの長い祖先より受け継がれてきた仏教思想の遺伝子が現代の日本人の心の中に無意識のうちに残っていたのではないか?と思われてなりません。

『千の風になって』の原詩は、アメリカ発祥と言われていますが、意訳された新井満さんが日本人の心の原風景を見事に捉えた詩であったからではないでしょうか?おそらく直訳されていたらこれほどまでの反響は無かったものと思われます。

仏教思想に亡くなられた方が、仏様として、この世に還相回向(げんそうえこう)して残された人々の周りにいて見守るという、事がありますが、『千の風になって』の詩はまさしく、仏教の還相回向を詠っていると、思います。

弊店も、ホームページを立ち上げて7年半の、年月が過ぎ去りましたが、今日まで数多くの時計の修理をしてきました。その中には祖父の大事な形見や、両親の大切にされていた形見の腕時計の修理を何十個としてきました。

修理依頼主の方から祖父や、父親が蘇ってきたようで大変嬉しいという、手紙やメールを沢山頂きました。また奇特な方は直った腕時計をお仏壇の前で供養したという方もおられました。

祖父や親の形見の腕時計を再生させてまた自分の腕につけるという事は、『千の風になって』と同じ様な温かい懐かしい心境に浸って、心が癒されていくのでないか?と思われてなりません。

アンティークウォッチを蒐集するのとは全く違った思い入れがある、心証風景だと思われます。