●続時計の小話・第44話(近未来の漠とした不安)
スイス及びドイツの腕時計メーカーが、ここ数年マニュファクチュール(一貫生産時計メーカー)化を目指して、目覚ましい企業努力をしています。ことの発端は2002年にスォッチグループのムーブメントメーカーETA社が、スォッチグループ以外の時計会社にエボーシュを供給しない、との発表をしたからでした。幸いにもスイス政府の圧力からでしょうか、事なきを得ましたが。
それ以降、ETA社からエボーシュの供給を受けていた、時計会社が危機感を抱き、マニュファクチュール化にまっしぐらに突き進んでいったメーカーがたくさんありました。最近では、新しい新機構の脱進機を開発して発表したりしています。特に目に見張るものに、オメガ社のコー・アクシャル脱進機、ユリスナルダン社のフリーク脱進機等が挙げられます。
超名門のパテック・フィリップ社が最近発売した『アドバンスト・リサーチ』に搭載したムーブメントには、シリコン製ガンギ車を採用し、ヒゲゼンマイにシリコン製の『スピロマックス』を採用している事です。
ガンギ・アンクル爪にアンクル爪油を注油しなくて済む、シリコン製のガンギ車を採用する事により、オーバーホールの期間が長くなる、というメリットもありますし、アンクル爪やガンギ歯に平均的に注油するという、煩わしい作業も無くなる事も大きなメリットです。また、シリコン製のヒゲゼンマイを採用する事により、内端、外端曲線を理想曲線にする、という極めて難しい作業も無くなるという事も大きな魅力にあるに違いありません。
片方の巨頭のオーデマ・ピゲ社も、アンクル爪石に潤滑油が要らない、画期的な脱進機を開発しています。
これらの新機構のエスケープメントが正当に正確に評価されるのは、発売されてから10年~20年以上実際に使用して経年変化を見ないと解らないのではないか?と小生は思います。
それに比べてみて、クラブツースレバー脱進機は、アンクル・ガンギの潤滑油の点に少しの難点があるだけで、ほぼ現在では100%完璧の域に達している、安心出来る脱進機と言えます。ユーザーの方の選択肢が増えた事はとてもありがたい事ではありますが、現時点で何十年に渡って使用したい、と思われる方は、クラブツースレバー脱進機搭載のムーブメントを小生は薦めたい気がします。(超高額のトーゥルビヨンの腕時計を買った人からも思ったより精度が出ていないと言う話しも聞いております。)
ある時計輸入商社から伝え聞いた話ですが、ETA社はエボーシュの供給を2010年に現在の4分の1にまで削減する、という事が言われています。こういう状況に立ち入ったならば、弊店が力を入れているオリスやエポス等の良心的な時計会社の小売り価格もかなり暴騰するのではないか?と懸念を抱いております。