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2007年01月22日

●続時計の小話・第46話(ラドー・ダイヤスター)

スウォッチ・グループの一翼を担う日米でとても人気のあるラドー社から、超硬ケース(キズがつきにくいスクラッチガード)をまとった、『ラドー・ジ・オリナジナルクラシック』が昨年16万円前後で発売されました。

この時計のデザインの原型は1962年に誕生した、ラドー・ダイヤスター・ジ・オリジナルのリバイバル版と言えます。バレルラインと呼称される、一見、楕円形のケースで他に類を見ない個性的なデザインでした。

1962年に発売された頃は、小生の記憶が正しければ大凡、7万円前後で売り出されたスイス高級腕時計の一つでした。父もこの時計のデザインが好きで、絶えず店頭に3、4本並べていた事を記憶しています。

小生が高校生の頃、正月元旦の日に中年の夫婦が店に入ってこられ、このラドー・ダイヤスターを現金であっさりと買い求めて行かれた事を昨日の様に鮮明に覚えています。今では、スーパーや百貨店が元旦から初売りするのが当たり前になってきましたが、40年前以上の商店街ではほとんどの店が正月三が日は休んだものです。根っからの商売人(頑固な時計職人でもありましたが)であった父は、元旦の日でもシャッターを一部だけ開けて一見客を取ろうとしたのかもしれません。

小生の父は、とても縁起を担ぐ信心深い人で、月の初めには長浜八幡宮、豊国神社にお詣りをし、月末近くには、日帰りの小旅行で京都伏見稲荷に参っていました。(酒を嗜まない父はそれが唯一の気晴らしであったのかもしれません。)元旦にラドー・ダイヤスターが売れたので、父はその年の正月は上機嫌で今年は景気が良くなる、と喜んでいて、その年のお年玉はいくらか、例年よりも多めであった記憶が残っています。

ラドー・ダイヤスターは、モース硬度8で、タングステンの合金でちょっとやそっとではキズが付きにくいケースで、いつまでも新品の様な光沢を保てる美しい腕時計でした。ラドーは当時は酒田時計貿易が輸入して販売していましたが、余りにも日本で人気を博したので、当時のラドーのライバル、平和堂貿易が輸入していた、テクノスが超硬ケースの『テクノス・ボラゾン』を発売して、それも当時としては大いに当たった腕時計でした。現在60~70歳代の人にとっては郷愁を呼び起こすような懐かしい時計かも知れません。

テクノス・ボラゾンのケースは、変形型では無く、丸形のオーソドックなケースデザインでした。超硬ケースは、キズがつきにくくて新品の光沢を喪失しない、という大きな利点がありますが、落下等の衝撃により、ケースに亀裂が入る場合が往々にしてあり、それが弱点と言えたかもしれません。