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2007年01月22日

●続時計の小話・第25話(超音波時計洗浄機 について)

オーバーホールの依頼を受けた腕時計は、完全に全てを分解して一度、重要なパーツは揮発油(ベンジン)の中でハケで手洗いして、超音波洗浄機にかけるのが一般的です。(ハケの手洗いを省略していきなり超音波洗浄機にかける修理工房もあります。忙しい修理工房やサービスセンターにいる、日に多くのノルマを課せられた時計職人には致し方ないかも知れませんが)

50年程前は、洗浄機が無かったので時計職人は、全てハケによる手洗いをしていました。小生が幼少の頃、父はいつも腕時計の分解掃除の時、黙々と刷毛洗いをしていた光景が浮かびます。父は刷毛手洗い後、布で揮発油を吸い取り、非常に細かい真鍮の網が張り巡らせた小さな桶状の器にパーツ類を白熱球の下に置いて乾燥させていました。その為に非常に多くの時間が洗浄に取られて効率の悪い作業になりました。

その後、ヴェルヴォ社が回転式時計洗浄機を発売して、時計店に大歓迎されました。その後、回転式洗浄機では十分に油汚れ等が落ちない為に、新たに超音波発信を内蔵した、『ヴェルヴォソニック超音波時計洗浄機』DC-8Wが40年ほど前に売り出されて、時計修理をする時計店には、必須の修理設備になりました。当時で10万円前後した高級な機械でした。

1秒間に15,000回以上の周波数をウルトラソニック(超音波)と言いますが、このヴェルヴォソニック超音波時計洗浄機は、1秒間に 400,000回以上発信し、この超音波を洗浄液中に伝えると洗浄液中には『キャビテーション』と言われる空洞現象を起こして極めて小さな真空ポケット泡が南国の夜空の星の如く無数に発生致します。

この泡が1秒間に400,000回以上発生する為に、液体があたかも沸騰したかの様に外部から見えます。この多くの微細な泡が連続的に発生し、地板・歯車等に当たりその力は非常に大きくなり、洗浄液を強力にかつ迅速に撹拌し、どんなに微細な所にも侵入してパーツについた汚れた付着物を破壊・分散してスピーディに精密に洗浄作用をします。

地板、歯車、穴石、受石等に付着した老化した油や、シミ汚れなどを取り除いて洗浄液の中に溶かし混んでしまう事が出来るのです。

現在の最新型、『ヴェルヴォ卓上型超音波自動洗浄機ETC-V』は885,000円します。この機械は3つの洗浄槽と乾燥槽とで成り立っています。弊店の超音波洗浄機は、精工舎の子会社であった『富士電気工業』社製CL101型を使用しています。この洗浄機は、さすが精工舎が監修しただけあって5つの洗浄槽と1つの乾燥槽で構成されています。

弊店では、第1、第2洗浄槽に違ったスイスベルジョン潤滑液を入れて使用しています。これらの優秀な時計洗浄機を使用しても10年以上オーバーホールをしていない腕時計の油の汚れは取り除く事が出来ない為、掃除木や爪楊枝を使って油汚れを取り除く様にしています。

超音波洗浄機は、時計職人にとって欠くことの出来ない修理機械ですが、これとて万能ではなく、最終的には人手を煩わせなくてはいけない場合が往々にしてあります。