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2007年01月22日

●続時計の小話・第26話(ゼンマイについて)

脱進機調整(アンクル爪第一停止量、第二停止量、剣先アガキ、クワガタアガキ等)を完璧に仕上げてテンプの片重りを十分に取り、ヒゲゼンマイの内端、外端を理想曲線に仕上げても、一番肝心な事にゼンマイの力が弱かったり、ゼンマイトルクが十分に満たされていない場合は、精度はとてもおぼつかないものになってしまいます。

それほどまでにゼンマイの力が十分に満たされているかどうかが、時計の精度を出す上で最低限の条件と言えます。ジャガールクルトのオフィシャルサービスセンターではオーバーホール依頼をされた時計には、ゼンマイが切れている、切れていないに関わらず、全てゼンマイを交換する事になっているそうです。

また、R社では、オーバーホール依頼の腕時計に対して香箱車とゼンマイを全て交換する仕組みになっているという噂です。

切れないゼンマイと言われているニバフレックス白色ゼンマイと言えども、毎日の使用による巻き上げ等により、金属疲労が生じ、切れないとも限りません。定期的なオーバホールを怠るとゼンマイ油が乾燥して変質したりして、解けるときの抵抗値が大きくなり、瞬時に爆発的な力をもって切れる場合が往々にしてあります。

最近の経験では、R社のゼンマイ、ETA Cal.7701、セイコーCal45系のゼンマイ等は、3~4年ごとのオーバホールを怠ると切れやすいと言えなくも無いです。瞬時に爆発的な力でゼンマイがほどける為に、香箱の歯に過度な力が加わり、歯こぼれ現象が起きたり、カナが損傷したりします。そうすると、ムーブメント全体に大きな負荷がかかるので、定期的なオーバホールは絶対必要と言えます。

昔の懐中時計の鋼鉄製のゼンマイの場合、長年の使用によりへタル場合があり、ゼンマイトルクが弱まり、ゼンマイ全巻きの状態でも、テンプ振り角が200度前後しか振らない場合があり、その場合は、テンプの振り角短弧で歩度の大きな乱れが生じます。

その場合ニバフレックスゼンマイに交換すれば良いのですが、なかなか寸法を合わせるのが容易ではありません。(トルクの強いゼンマイを入れたりしますとテンプが振り当たり現象を起こし歩度がかなり進んでしまいます。)また鋼鉄製のゼンマイが切れてしまった場合、今日ではなかなか入手が出来ないので、ゼンマイの切れた部分両先端に錐で穴を開け、ピスを別作してカシメて繋げる方法を小生は以前良くやった記憶があります。

自動巻のオーバーホールの場合、ゼンマイを香箱から必ず取り出し、古い油を完全に取り除いてからゼンマイ巻き入れ器で香箱の中に入れます。(解けたゼンマイを一度、手で香箱車の中に入れる作業をしてみるとゼンマイのトルクの大きさが感覚で手にわかって良い経験になります)

弊店では自動巻ゼンマイ油はセイコー社製S2を使用しています。また、手巻きのゼンマイ油にはメービス8200を使用しています。どのゼンマイ油がベストかは職人の長年の経験に頼るしかないかも知れません。
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