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2007年01月22日

●続時計の小話・第34話(セイコー・ニューシャテル・天文台クロノメーター)

先月、東京のT様からメールがあり、
セイコー腕時計1970年製、品番:4520-8020シリアルNo:080068のオーバーホールをして欲しい旨のメールがありました。お父様の形見の時計で、長い間しまい込んでいた時計らしく、小生の『時計の小話』をお読みになって良い時計ではないか?と思われて修理依頼のメールが来たわけです。

メールの内容からCal.45系の手巻きのグランドセイコーと思い、修理依頼品を送って頂けるように返事をしましたが、ご夫婦お揃いになって弊店に車にて、ご来店頂きました。最近、遠方からの修理依頼品の持ち込みが多いのですが、ご夫婦で東京から来られたのには少しびっくり致しました。

この時計を受け取ってびっくりした事は、『時計の小話 第23話』に書いているように、セイコー社が過去現在を通して初めてスイスニューシャテル・天文台クロノメーター合格品を市販した、時計であった事でした。この時計は、セイコー社内精度等級、最高度の4Aであり、新品静止状態数値・日差-2~+2という、極めて高精度の腕時計でした。

この時計は、第二精工舎の技術陣が開発したものです。おそらく組み立て・調整等は、野村、井比の両氏を中心に名工が精度調整されたものです。 1970年前後はセイコーのメカ式腕時計に関しては技 術は頂点を極めた頃の時代でありました。 1970年前後はセイコーのメカ式腕時計に関しては技術は頂点を極めた頃の時代でありました。

セイコーCal.45系(36000振動)は、手巻きのセイコー・ムーブメントの中では、極めて高精度の出る優れた機械なのですが,このスイスニューシャテル・天文台クロノメーター合格品が、いかほどまでに優れた調整したムーブメントであるか、胸をときめかせてオーバーホールに臨みました。

分解するまでに過去の時計職人が如何様な修理をしているのか?精密に精査をしましたが、あまりにも稚劣な修理作業をしていたので腹が立つやら、情けない思いにかられました。おそらく、過去において何度かこの時計の修理をした職人は、この時計のいわれを全く知らないで修理をしたものに違いないとおもわざるを得ませんでした。地板や各ネジにキズが多くつけられていて、ヒゲゼンマイも素人が弄ったように外端が変形しておりました。ヒゲ受けのヒゲ当たりも片当たりになっていました。

東京にセイコー・サービスセンターがあるにもかかわらず、弊店を選んで修理依頼されたものですから、職人冥利に尽きるものです。意気込んで修理した結果、新品当時の許容精度以内に収める事が出来、ご期待に添えられそうで一安心致しました。

最近、セイコーインスツル(前身・第二精工舎)が43,200振動の超ハイビートのCal.ND58を完成させたそうです。スイスの高級腕時計パテック・フィリップの様にガンギ車をシリコン製にして、無注油にするのではなくて、ガンギ車の表面にポーラス状(多孔)の加工をして、保油力を高めたそうです。当然、強いトルクのゼンマイを採用している為に、R社がしている様に、輪列車が摩耗しにくい様に硬質メッキを施したり歯車の厚みを増しているそうです。

非常に魅力のある時計だと思われますが、予定価格が800万前後するそうなので、セイコーインスツルの会社姿勢に小生としては疑問を持たざるを得ません。かつての第二精工舎時代、名機のCal.45を搭載した、キングセイコーがお手頃な買いやすい価格で販売されていた事を現・経営陣は考慮すべきだと思います。