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2007年12月10日

●続時計の小話・第70話(ETA社の気になる動向)

2002年夏に、スイス及びドイツの腕時計メーカーに恐怖のニュースで震撼させた出来事がありました。

それは、スウォッチグループのムーブメント担当製造メーカーである、ETA社がスウォッチグループ以外の、スイス及びドイツの腕時計メーカーにETA社のムーブメント・キット(エボーシュ・パーツ)を近年中に供給しない、と宣言した事でした。

その後、スイス公正取引委員会の綿密な調査が終了し、2008年まで現状のままムーブメントパーツを供給し続ける事が内定しましたが、2010年でETA社が自社のムーブメントのエボーシュを、スウォッチグループ以外の時計メーカーに供給をストップ出来るという、許認可を貰う事が出来ました。

その決定により、スイスの95%以上のほとんどの腕時計ブランドメーカーにとって、大きな宿題を課せられた事になった訳です。

ETA社がスウォッチグループ以外の腕時計メーカーにエボーシュを供給しなくなる2010年以降は、自社ムーブメントを所有していない時計メーカーにとって死活問題であり、会社の存続する事すら不可能になる可能性が大になる為に、ETA社は、なんとか生き延びる妥協する逃げ道を作ってくれました。

それは、ETA社製ムーブメントの各パーツ(仕上げ加工を施していない半完成品・エボーシュ)は供給しない代わりに、ETA社の完成・コンプリートムーブメントは2010年以降も供給する、という穏和な決定をした事です。その事により、自社ムーブメントを持っていないスイスおよびドイツの時計メーカーは、胸をなで下ろしたに違いありません。

しかし、その決定を受けるにあたり、スイスの大多数の時計メーカーの生産コストは大幅に上がらざるをえなくなり、今年小売上代がほとんどのスイス時計メーカーが値上がりした率以上に、大幅な価格改定が2010年以降に続々と起こりえるのは必定であります。

今般の機械時計式腕時計の隆盛と共に、ユーザーの方々から、大きな支持を得てきたスイス各腕時計メーカーの消費に冷や水を浴びせさせ、人気が大きく落ち込むのは目に見えて解ります。そういう事が近々に起こりえると予知したスイス時計メーカーのCEO達が自社ムーブメント製造へと大きく舵をとってきたのは皆さん承知の事実であります。

パネライに代表される様に弊店で取り扱っているノモス社、フレデリックコンスタント社も自社開発ムーブメントを完成させてきました。その一方、自社開発ムーブメントを完成させていない多くのスイス腕時計の価格は2010年以降大幅に値上がりをせざるを得ない状況に追いやられ、日本の時計愛好家の人達もその点に関して大きな危惧を抱かれているものと思います。

今から30年~40年前では、セイコー社、シチズン社も毎年何種類かの新型機械式ムーブメントを製造し続けてきましたが、それはなんの不思議さを抱く事さえ感じる事なく、新型機械式ムーブメントを開発するのが当たり前の様に捉えられてきました。

一方、最近のスイス時計や日本の時計メーカーの新型機械式ムーブメントを生産するブランドの小売価格の推移を見てみますと、新ムーブメントを開発するに人的および、資金的に莫大な費用がかかるのは必然ではありますが、予想を大幅に超える価格設定をしているためにユーザーにとっては、商品が魅力ではあってもなかなか手が出せないという、事実があると思われます。

以前のセイコー社やシチズン社が新開発機械式ムーブメントを開発したからといって、小売価格に全く上乗せをしない、という良心的な企業姿勢を見習ってスイス及び日本の時計メーカーもこの方向で、進んで頂けたらと、小生は思っております。