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2007年05月05日

●続時計の小話・第58話(NHKのニュースで)

昨日(4/30)、NHKの夜9時のニュースで『復活スイス高級腕時計・その理由は、どう巻き返すか日本』という特集を放送していました。

スイスで毎年開催されるワールドウォッチ・バゼールフェア2007が、4/12~4/19まで一週間開催されました。弊店の取引先の正規輸入元・営業マンがスイスへ出張して話しを聞いた所によると、大盛況であったそうです。

昨年、一年間のスイス時計の輸出額は1兆3,500億円に上り、世界中の時計愛好家の人々からスイス高級機械式腕時計が、如何に人気を集め支持をされているか?伺い知れる数字です。

セイコーのクォーツクラッシュにより大打撃を受けたスイス有名時計メーカーが、このように大復活をなし得た、その原因を、今まで時計の小話に書きつづってきましたが、やはり一番の大きな理由は、メカ式時計技術の伝承にかける意気込みと、国と州による、国家を挙げての若い時計技術者を時計学校で育て上げるという、意気込みが途切れる事なく、続いた結果だと思います。

国産を代表する、セイコー社のセイコ-・インスツルが岩手県の雫石に『高級機械式腕時計工房』を遅ればせながら、立ち上げた事は、日本のメカ式時計技術の向上の為には、非常に良かったと、思います。その放送の中で、雫石の技術者のトップにおられる技術者の桜田守氏(現代の名工)が言っておられた言葉に、小生は多少違和感を覚えざるを得ませんでした。

桜田氏は『正直言って、技術力では日本の方が優れていると思います。そういう技術を向上する事で最終的にはスイスを超えたい。』とおっしゃておられました。果たして、現在では日本の方がスイスより一歩前に行っているのでしょうか?スイス時計業界のトップレベルの時計技術者達は、トゥールビヨンや、永久カレンダーや、スプリットセコンドクロノグラフ、ニミッツリピーター等の複雑時計を設計し、自らの手で世の中に送り出す、という才能溢れた時計技術者が何人もいます。

果たして、日本ではそういう時計技術者が一人でもおられるでしょうか?

1970年代初めの頃では、セイコーの機械式腕時計の精度ではスイス高級腕時計と並んだと、言えるかもしれませんが、現在での時計技術の総合力では、断然にスイスがリードしていると言わなければなりません。その評価を端的に表しているのが、スイス時計産業の輸出金額である、と言えます。

セイコーの雫石の高級時計工房に10年ぶりに、19才の若い見習技術者のM君がたった一人入社したそうです。それに比較して、スイス時計業界では、毎年何十人にも上る優秀な若手時計技術者が各有名時計メーカーに入社していく事を比較すれば、その事だけでもスイスと日本の優劣の差は歴然とするのではないでしょうか?

雫石の工房に『機械式時計でスイスを超える』という看板が立っていましたが、セイコーが本気になってスイス時計を凌我する為には自前の4年制のセイコー・時計学校を創立して、毎年優秀な若手の時計技術者を輩出していかなけば、到底スイス時計に敵わない、と私は思っています。

スイス時計業界の底力をかいま見るものに、長年に渡り時計工具を製造してきた、スイス・ベルジョン社の存在があります。日本には、スイス・ベルジョン社のように、営々と優秀な時計工具を一貫して
生産しつづけてきた工具メーカーがこれまであったでしょうか?その点から見ても、日本はまだまだ到底スイスに太刀打ち出来る力はまだ無い、と思わざるを得ないのが残念です。

日本の時計メーカーがスイスに肩を並べられた、と言える日は、日本の時計メーカーがトゥールビヨンや、永久カレンダーや、スプリットセコンドクロノグラフ、ニミッツリピーター等の複雑時計を生産し、その機械の醍醐味を理解して購入する時計愛好家がいて、それを完全にアフターサービスが出来る高度な時計技術者がいて、初めてスイスに追いついた、と言えるのではないでしょうか?