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2007年01月22日

●続時計の小話・第41話(高振動について)

近年、市場に出回っている腕時計の多数は、8振動以上のハイビートが占めています。高振動の腕時計が5振動(ロービート)よりも優れた点は、高速回転でテンプが振動する為に、外的衝撃を受けにくいという点が挙げられます。

腕につける腕時計は、置き時計や掛時計と違って、外的衝撃を常に受けやすく、その結果、歩度に大きな影響を及ぼし、精度の不安定化を起こします。テンプの振動数が高ければ高くなるほど、テンプの回転は速くなり、それだけ外的衝撃の外乱要素の影響を受けにくくなります。

精度を高める腕時計には高振動ムーブメントが採用される起因はここにある訳です。

高振動を得る為には、強いヒゲと軽い小型のテンプ、の組み合わせが必要ですが、その為に平姿勢と縦姿勢のテンプの振り角の差が少なくなり、姿勢差誤差を少なくする事が容易になります。

強いヒゲゼンマイを採用する事により、アンクルの第二停止上でテンプが止まっているという現象は起こりにくくなります。また強いヒゲゼンマイを採用している為に、止まった状態でゼンマイを軽く巻いた程度では動き出しにくいという、現象も顕れます。ロービートのアンクル爪への注油は、一般的にハイビートのアンクル爪よりも大きくなっている為に注油がとてもし易い、という利点があります。

ハイビートの場合、ガンギ歯数も多く、アンクルも一般的に小さく作ってある為に、まんべんなくガンギの歯の衝撃面に油を塗る事は、高度な技術を要するものです。ロービートの場合は精度を上げる方法として大型のテンプを採用しているケースが多いと思います。

時計雑誌等に、良くハイビートは高速回転する為に、パーツの損耗が激しく、寿命が短い様に書かれている場合がありますが、メーカーでは、歯車のカナ等に硬度を増すメッキ仕上げ等をしている為に、それほど杞憂を抱く必要はありません。小生が名機と思っているセイコーCal,45系(10振動)も生産されてから40年近く経っているにもかかわらず、上手く調整すれば新品の頃の精度が見事に蘇ります。

最近セイコー社が12振動の超ハイビートの腕時計のプロトタイプを発表しましたが、それとてメーカーでは、苦心惨憺して耐久性をあげる為にいろんな手はずをしています。