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2009年06月27日

●続時計の小話・第100話(悪戦苦闘の修理)

愛知県のI様から今月初め、1970年第二精工舎製のキングセイコー・クロノメーター手巻き腕時計(Cal.4500A 25石)の修理依頼を受けました。

この時計は、I様が30年以上愛用されてきたキングセイコーで、ゼンマイの巻き上げが出来ず、弊店に来る前に三軒の時計修理店に修理を依頼されましたが、ゼンマイや歯車が手に入らないという、理由で断られた時計でした。

なんとか弊店にて修理依頼を受けて欲しい、という事なので小生の好きなセイコー・Cal.45なので受ける事に致しました。分解してみますと、ゼンマイは当然の如く切れておりましたし、ゼンマイが一杯巻かれた状態で一瞬に切れた様なので爆発的な力が歯車の歯・カナに加わった為でしょうか?香箱車の歯こぼれや、二番車の歯こぼれがありました。

Cal.45はセイコーの最高峰の手巻きの名機なのですが、10振動のハイビートの為、ゼンマイトルクが強い影響で中心カナ車や、中心カナ伝え車の歯やカナが損耗・摩耗しているのが多く見られます。この時計も当然の如く、中心カナ車(パーツNo.226450)、中心カナ伝え車(パーツNo.296450)の大きな損耗・摩耗が見られました。

セイコーCal.45は、高精度が出る非常に良い機械なので小生は以前より機会があればこの時計のパーツを出来うる限り集めてきました。ゼンマイ、香箱車、2番車等は弊店在庫がありましたが、中心カナ車(パーツNo.226450)、中心カナ伝え車(パーツNo.296450)のパーツはもう既に使いきって持っておりませんでした。

製造元のセイコー社にはとうの昔にこの時計のパーツは全く持っていないので、弊店取引先の時計材料店に2、3軒当たってみましたが、どうしても中心カナ車だけは見つからず、中心カナ伝え車のみ、やっとの思いで、ある材料店から入手出来ました。

それにしてもセイコーは何故、歴史に残る過去の名機の腕時計のパーツを持っていないのか不思議でなりません。クォーツ一辺倒に会社が目指していたときにメカ式のパーツを処分してしまったのでしょうか?残念でなりません。

(諏訪セイコー・現セイコーエプソンのT氏が弊店に来られたときに言っておられましたが随分昔に会社はメカ式の設計図・マイクロフイルム・修理工具等を全て破棄してしまったとの事でした)

中心カナ車も摩耗していた為、交換すべきなのですが、もはや入手出来ないのでやむをえず、そのパーツは交換せずに何とか修理してオーバーホールを完了致しました。この時計は以前にも時計の小話で何度か触れましたが、時計職人の技量が試される高精度の出る機械なので、ヒゲゼンマイ等を精密調整しました所、40年近く経っているにもかかわらず、優秀クロノメーター級の精度が蘇りました。

3週間、悪戦苦闘した時計修理でしたが、修理完了してホッとしました。I様には、きっと喜ばれた事と思っております。手巻き腕時計の場合、留意すべき点はリューズを右回りに30回程巻いてリューズが回らなくなるまで、一日に一回ゆっくり巻き一杯に巻き上げた後、さらに強く巻き上げますとゼンマイが切れてしまいますので注意が必要です。