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2008年04月06日

●続時計の小話・第81話(ハイビートについて)

1945年の太平洋戦争後、生産を再開した国産の腕時計の振動数と言えば、5振動(ロービート)からスタートし、その後、5.5振動や、6振動へと移行してきました。ハイビートと言えば、現在、8振動以上のムーブメントを指すのが一般的です。

ロービートから何故にハイビートへ移行したかと言えば、一番大きな理由にハイビートの方が、携帯した場合、振動数が多いために外乱要素の衝撃等の影響を受けにくく、携帯精度が優れているからです。5振動の場合、ゼンマイトルクがハイビートよりも弱い為に、耐久性の面で摩耗しにくいという優れた点がありますが、静的精度では、十分な精度が出ても携帯精度では、ハイビートよりも劣るというマイナス面があります。

また、ロービートの場合、テンプの振り角が落ちた場合、短弧と長弧の姿勢差誤差が大きく出やすいという、デメリットもあります。そういう観点から戦後の時計メーカーは、内外問わず、ロービートからハイビートへ移行するのは必然的な成り行きだったのでしょう。

1965年に、ジラール・ペルゴ社が世界に先駆けて10振動のクロノメーター規格に合格した腕時計を発売した時、大きなセンセーショナルを世界中に喚起させました。余りにもジラール・ペルゴー社の精度が予想よりも優れていた為に、諏訪精工舎も負けずに1967年、Cal.5740のロードマーベルを発売しました。

同じ年に第二精工舎が、Cal.1944の10振動の婦人用手巻き腕時計を発売しました。1968年には、諏訪精工舎が、Cal.6146の10振動の紳士用のGS自動巻腕時計を開発し、同じ年に第二精工舎が、名機のCal.45の10振動の紳士用GS,KS手巻き腕時計を開発しました。

スイスでは、ジラール・ペルゴ社以降、1967年にロンジン社が工場創設100周年記念、生産総数1500万本達成記念として、36,000振動の『ウルトラクロン』を発売しました。この名機とも言える『ウルトラクロン』は弊店にも時折修理依頼がやって来ます。1969年には、モバードとゼニスが共同開発した、10振動のエル・プリメロ・クロノグラフ・ムーブメントを開発しました。

その後市販されているハイビートの頂点にいるのは、2006年にセイコー・インスツルが毎時43,200振動のムーブメントを開発したのが、最高のハイビート・ムーブメントであります。(過去の1960年代のニューシャテル天文台コンクールでは、セイコー社が、Cal.052 毎時72,000振動のムーブメントを開発してメカ式で最高得点を獲得して、精度の面では、スイス時計メーカーを凌駕した時期もありました。)

5振動の腕時計を、ゆっくり走る蒸気機関車に喩えるならば、10振動の腕時計は、新幹線の『のぞみ』や『ひかり』に喩える事が出来ると思います。現行のハイビートの主流を成している、8振動は、特急列車に喩えられるかもしれません。

定年後の人生をマイペースでゆっくりと歩みたいと願っている人、アンティークを嗜好する人、アイデンティティを標榜する人にはロービートの腕時計が似合うでしょうし、多忙を極めるエリートビジネスマンの人や、精度の面で揺るがない高精度を要求する人にはハイビートが似合っているかもしれません。

いづれにしても、総合評価で言うなれば、携帯精度や、耐久性を考慮して8振動のムーブメントがベストではないか?と小生は思っております。エタCal,2892やロレックスCal,3135等の現代を代表するムーブメントも8振動を採用しています。