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2007年01月22日

●続時計の小話・第1話(定期的なOHの必要性)

丈夫で堅牢な、ケースで保護されているロレックスのメカ式自動巻の頂点に位置するCal.3135でも、定期的なオーバーホールを怠ると、いろんな、不具合が生じてきて、故障の原因になります。最近、修理したロレックスの中で、定期的なオーバーホールをしていない為に起こった修理依頼が2~3個続きました。

1つは、手巻きする時に、異常にリューズ回りが重い状態で、ほとんどゼンマイが手巻き出来ない故障でした。分解して、良く見ると、丸穴車と角穴車の間にある、中間伝え車の地板にある歯車の受けネジ部が、油切れ状態で、かなりの期間無理に手巻きをしていたために、ネジ受け部が損耗摩耗して、減ってしまい、歯車とネジ受け部のアガキが大きくなり、各歯車の噛み合いが深く、手巻きが出来ない状態になっていました。

修理する方法としては、香箱・一番車受け地板一式を取り替えるのが一番なのですが、非常に高価な為、交換せず、摩耗した汚れたネジ受け部を、ハケ手洗い洗浄で綺麗に洗い落とし、グリースを少し多めに注して修理しました。この様な故障は、3、4年に一回、OHをしていれば絶対起こらないものなのです。

自動巻でよくある故障の1つにOHを定期的にしないと油切れによりローター真が摩耗してローター受けとのアガキが大きくなり、ガタガタになってしまいローターが、ケースに擦れて充分に自動巻が出来ない故障が起きてしまいます。これとて、定期的なOHをしていれば、防げる故障の1つです。ローター真を人工ルビーにすれば、摩耗が防げて、そういう故障は起きにくいと思われるかもしれませんが、ロレックス社のCal.3135は、ローターと自動巻受けとを、U字型の楔で留めている為にそれが出来ないものと、推察しています。(人工ルビーを採用すれば楔留めするときに石が欠けてしまうからでしょう)

セイコー社のCal.61型やCal.62型は、ローターに偏心ピンが取り付けてあり、蟷螂の手の様な形をしたマジックレバーとの回転摩擦により、偏心ピンが、細くなってしまうという故障がありました。これとて、定期的なOHをしていれば、完全に防げる故障の1つです。(精工舎では改良して偏心ピンを人工ルビーで作っているキャリバーがありましたがそれが出来たのも楔留め方式ではなく地板でマジックレバーをネジ留めしている方式だったため可能であったのでしょう。)

弊店で、メカ式をお買い上げ頂いた方には、メカ式は落下・衝撃・磁気・振動に弱いという事を頭に置いて使用して頂きたい旨を、お知らせしていますが、いかんせん、腕時計は、体の一部につけて使用する為に、いつ何時どんな衝撃が加わるか?解らないものです。先日、うっかりロレックスを床に落とされた時計の点検依頼を受けましたが、ムーブメントを見てみますと、ブレゲヒゲゼンマイが、片側に異常に偏心伸縮運動をしている為に、日差20秒の遅れが生じていました。

Cal.3135は、メカ式自動巻腕時計としては、最高度の精度調整が出来る機械だと小生は思っていますが、やはり、落下・衝撃には弱点があり、その原因の一つにCal.3135は、ヒゲ受け・ヒゲ棒を採用していない為に、このような故障が起きやすいものと、推察しています。

もし、ヒゲ受けヒゲ棒の緩急針方式を採用していれば、落下によるブレゲ・ヒゲゼンマイの変形、という事は防げた可能性はあるのですが、歩度の等時性の安定、微細精度調整の意味では、ヒゲ受け・ヒゲ棒を外した今のマイクロステラ(ミーンタイムスクリュー)方式の方が優れているのではないか、と思われます。