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2008年11月24日

●続時計の小話・第91話(ヒゲ持ちについて)

ヒゲゼンマイの外端曲線の先端には、ヒゲをヒゲクサビで留めたヒゲ持ちというパーツがあります。
ヒゲ持ちをテンプ受地板にネジ止めする事により、テンプが収縮回転運動をします。
ヒゲ持ちを止めるネジが弛んだり、脱落すると時計は止まったり、大きな誤差が生じます。

近年のETA社ムーブメントは、加工技術が飛躍的に高まった為と、生産効率を上げるためにヒゲ持ちをネジで止めないで、地板に挟み込んで保持する方法を取っている為にヒゲ持ちネジが脱落して故障する、という事は全く無くなりました。(ヒゲの高さを平に調節する面倒もなくなりました)

元来、ヒゲ持ちの形状はほとんどが円柱形ですが、旧型グランドセイコー等には、三角柱という形状があります。現行ロレックスの場合は、ヒゲ持ちが板状で、挟み込んで止める方法を取っています。(旧精工舎社が何故、旧GS等に三角柱の形状のヒゲ持ちにしたかは、小生には解りかねる処です。三角柱の形状のヒゲ持ちのネジ留めは何度もOHしている場合凹が出来ては難しいと言えるでしょうか)

ヒゲ持ちの高さを適切に調整する事によって、ヒゲゼンマイを水平に収縮する様にします。ヒゲゼンマイが外側から観て、皿状になっていたり、皿を俯せにした様になっていたりした場合には、等時性に微妙に悪い影響を受けます。

よってヒゲ持ちを止めるネジを締める時は、細心の注意が必要です。何回もOHをされてきた腕時計のムーブメントの場合、時計職人の癖が出てヒゲ持ち留めネジを強く締めこんでいる場合があります。

その場合、ヒゲ持ちにネジの先端が強く当たった為に、円錐状の大きな窪みが出来てしまいます。その窪みが正確な位置にあった場合はなんら問題は無いのですが、ヒゲゼンマイが平になっていない時、適切な位置のヒゲ持ちにして、ネジを締めこんでも悪い位置の円錐状の窪みにどうしても填ってしまう場合があり、その時は、相当面倒な加工調整になります。

その時は、ヒゲクサビを外して、ヒゲ持ちを最小の四つ割にはめ込んで、円錐状の窪みをヤスリとか、油砥石で平にしなければなりません。平にした場合には、ヒゲ持ちをどこにでもネジで止められる為に、ヒゲゼンマイを平に収縮する様に位置止め出来ます。

何故、ヒゲゼンマイを平にすべきか?は文字板上(DU)、文字板下(DD)と日差の誤差の影響が生じる為です。ヒゲゼンマイが皿状になった場合には、平姿勢で進む傾向が出ますし、ヒゲゼンマイが皿の俯せ状になった場合には、平姿勢で遅れる傾向が出ます。文字板上(DU)の状態で、ヒゲゼンマイを平にする事がベストですが、組み立てる時には、文字板下(DD)側から見て、平になっていれば良しと言えるでしょう。

現行のロレックスのムーブメントのヒゲ持ちは、板状で挟んで止めるので、ヒゲゼンマイを容易にベストの平に止める様に工夫されています。そんな日差僅かにしか影響を受けない所でも、ロレックス社はこだわってヒゲ持ちを適切な位置に留めやすくする様な形状にしています。