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2007年01月22日

●続時計の小話・第12話(ヒゲ外端曲線とヒゲ棒間のヒゲ遊びについて)

小生が、オーバーホールの修理依頼を受けた腕時計の歩度調整する時に、一番神経と時間を使う箇所があります。以前にも、書きましたが、ヒゲ受け-ヒゲ棒間のヒゲ遊びの隙間量の調整と、緩急針を45度動かしても停止状態の時、ヒゲ受け-ヒゲ棒間の間に、ヒゲゼンマイが丁度真ん中に来るようにヒゲ外端曲線を修正することです。

また振動回転中にヒゲゼンマイが同心円状に伸縮運動するようにヒゲ外端曲線を修正する事です。アンティークの高級腕時計は、ブレゲ巻き上げヒゲを採用している事が多いのですが、この場合は、ヒゲ受けは無くヒゲ棒2本で緩急調整出来る様になっています。

過去の小生の経験から言いますと、かつてのインターナショナルの巻き上げヒゲのヒゲ棒遊びの量が、極めて少なく理想的ヒゲ外端曲線を描いておりました。当時のインターナショナル社の技術者のヒゲ調整能力は、世界最高度のものであったと、推察しております。

平ヒゲの場合、普及品のタイプは、ヒゲ棒-ヒゲ受けですが、高級腕時計となると2本のヒゲ棒とヒゲ受けを採用していました。どのタイプもヒゲを、掴み挟むのではなく、ヒゲ受けとヒゲ棒の間のヒゲ遊びを出来うる限り少なくする事により、精度が一段と良くなり、等時性、姿勢差誤差も大変良くなるものなのです。
(前提条件として全巻きでテンプ振り角が300度前後ないとダメなのですが)

ヒゲ棒-ヒゲ受のヒゲ遊びが大きい場合、テンプ振り角が短弧の時、両方に接触する時間が短くなり、『遅れ』の状態を引き起こし、特に縦姿勢の場合、大きく歩度が乱れる原因を作ります。ヒゲ棒遊びが少なければ少ない程、ヒゲ受け、ヒゲ棒に接触するのが強くなり、接触する時間も長めになり、歩度の安定をもたらします。

余程、稚劣な、時計職人が弄ったものでなければ、ヒゲゼンマイの内端曲線は壊れていないので、分解するまでにテンプ運動を何回となく見る事によって、ヒゲ外端曲線を修正したりしています。

一番良い方法は輪列歯車・輪列地板を全て取り外してテンプ受けのみを取り付けて四方からテンプを眺めますとヒゲゼンマイの正確な調整が可能になります。弊店の時計通信講座生にも、高級技術としてヒゲ外端曲線の修正、ヒゲ棒遊びの極小化に取り組んで貰っていますがなかなか上手くはならないものです。