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2007年01月21日

●第195話(婦人用GSについて)

ある地方の方から、お母様の形見の婦人用グランドセイコー(手巻き)を直して欲しいと、修理依頼が当店に舞い込みました。セイコー社に問い合わせても修理を断られ、インターネットで当店を検索され、送られてきました。

40年間使われていたにも関わらず、60倍の双眼顕微鏡で見てもガンギ歯のロッキングコーナー・衝撃面・レットオフコーナーは全く摩耗していませんでした。当時のセイコー技術陣の素材研究に対する完璧さがわかるものです。この時計は1969年第二精工舎が満を持して発売した、ハイビートで10振動のムーブメントです。これは世界初の婦人用ハイビート発売の快挙なのです。

40年ほど前の婦人用腕時計と言えば、国産中級品で日差40秒前後狂うのは当たり前の精度で、スイス高級婦人用腕時計でも日差25秒位は狂ったものでした。しかしこの婦人用のGSは36,000振動の為、今までの婦人用精度からは想像を絶する高精度が出ました。メーカーが発表している許容精度は- 15~+25秒という控えめな数字でしたが、実際に携帯してみると-5~+15秒以内に入っている素晴らしい精度を維持していました。

キャリバーは1944A(ハイビートクロノメーター、23石、中3針)、ムーブの大きさは12.9mm×19.2mmで、厚さは4.4mmでガンギ歯の数は20ありました。

私が若い頃、この時計のセイコー技術講習会に参加した記憶があります。その時、セイコー技術者の説明では「ハイビートであるから、ガンギ車とアンクル爪には保油の為、特殊な処理膜を施しているので、修理OHの際には音波洗浄や刷毛洗い等はしないで、洗浄液(ベンジン)だけで軽くゆすぐ程度にして欲しいと言われました。今ではハイビートの脱進機にはエピラム液処理をするのは当たり前になっているのですが、その当時は企業秘密で公には出来なかったものと思います。そう言えば同じ10振動のロンジン・ウルトラクロンも、修理OHの場合はガンギ・アンクルの新品交換を旨としていました。

このGS婦人用は紛れもなく当時の婦人用腕時計では世界ナンバーワンの精度を維持していました。その栄光はブローバの婦人用音叉時計が出現するまで続きました。この時計は修理後日差+10秒前後まで精度を絞ることが出来ました。

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