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2007年01月21日

●第34話(脱進機について)

腕時計の脱進機(ガンギ車、アンクル、振り座)には大きく分けて3通りあります。ラチェットツース脱進機、ピンアンクル脱進機、クラブツース脱進機です。現在ではほとんどの腕時計にはクラブツースレーバー脱進機が使用されております。ガンギ車、アンクル、テンプを含めて調速機(エスケープメント)とも呼称されます。

クラブツース脱進機は、どのような安価な腕時計でも腕の立つ技術者にかかれば高精度の歩度の出る機構です。50年前に製造された19セイコー(国鉄職員の標準提げ時計で安定したクラブツース脱進機を採用)も確かな調整士にかかれば、今でも日差15秒以内に収まります(ゼンマイトルクが低下しているためゼンマイを新品に交換しなければなりませんが)。但し、ガンギ車のロッキングコーナー、レットオフコーナーが40~50年間も使用するとさすがに摩耗しているため、衝撃面を油砥石で磨き、ゆるやかな円弧状になった衝撃面を平らにしなくてはなりません。当然アンクル爪を出し入れして調整し、難しくて面倒なスジカイ試験をガンギ車の歯すべてにしなければなりません。腕時計になると更に小型になるため作業は困難を極めます。

そのことを考えれば、腕時計の寿命は、毎回分解掃除、手入れが正しく行われたとの条件付きで18000振動のもので50年が限界ではないでしょうか。10振動のハイビートの腕時計では摩耗が激しく、その約半分の20年が精度を維持する状態の限界でしょう。アンティーク時計を購入される方は、そのことを念頭に入れて買われたら如何でしょうか。その点、退却型、及び直進型脱進機を搭載した柱時計、置き時計はメンテナンスをしっかりやり、ゼンマイトルクが弱らなければ、ゆうに80年から100年は使用に耐えられるものでしょう。

以前私は農協の理事長室の置いてあった、数十年ほど前に作られた独逸ユンハンス製のウエストミンスターチャイム重鎮式置き時計を3日間かかって修理しましたが、入歯、各種ピン別作して、驚くような精度に戻ったことを記憶しております。
旧家の家には、まだまだ使用に耐えうる昔の柱時計、置き時計があるのではないでしょうか。大切にしたいものです。