« 第208話(時計設計師と時計技術者) | | 第210話(セイコー・ダイヤ・アジャスト機構について) »
« 第208話(時計設計師と時計技術者) | | 第210話(セイコー・ダイヤ・アジャスト機構について) »
2007年01月21日

●第209話(アンクルについて)

アンティーク腕時計の修理依頼の200~300個の中の内、1個はアンクル真のホゾが折れていたり、曲がっていたりしている場合があります。アンクル本体は、『入り爪、出爪、アンクル真、剣先、アンクル体』から成り立っています。

アンクル真のホゾが折れていた場合、アンクル本体の一式を交換するか、もしくは、アンクル本体が入手不可能の場合は、アンクル真を旋盤で別作して作る場合があります。形状は天真よりも簡単な為に、旋盤で別作する事自体はそんなに難易度が高い作業では無いのですが、アンクル体に圧入(摩擦式)する時の、振座・振り石との兼ね合いの高さ調節が、極めて難度となる作業です。

最近のアンクル真は全て圧入式(摩擦式=押さえ込む事によって固定。)ですが、古いアンティークの懐中時計などには、アンクル真にネジが切ってあり、アンクル体にネジ込むタイプのものがあり、これを『ネジ込み式アンクル真』と言ったものです。

全長2.0mm~2.5mmのアンクル真の上の部分のわずかな所に小物捻子板でネジを切るのは、大変な作業になるものです。今ではほとんどのアンクル真が圧入式なので、旋盤でアンクル真を別作してもネジを切る必要は無くなり、その点、大分作業が楽になりました。

でも、アンクル真をアンクル体に圧入する時、圧入する高さは振座、振石との兼ね合いがある為、慎重にならざるを得ない作業となります。アンクル真をアンクル体に圧入する時には、経験の豊富なベテラン時計職人の場合は一般的には、タガネを使用しますが、最善の方法は『サイツ穴石入れ器』を使うのがベストだと思います。『サイツ穴石入れ器』には、上部に、マイクロメータの装置がついてあり、圧入時の押し込む量を決められる様になっています。この方法は、『マイクロ・プッシュ・イン方式』とも呼ばれています。

アンクル真の形状は、ほぼ4つにわけられます。
・アンクル真の上下ホゾが、平面穴石によって支えられるタイプ、ホゾとアンクル真が直角になっています。
・下ホゾに受石がついているタイプは下ホゾを天真のホゾのようにテーパーをつけて加工します。
・上ホゾに受石がついているタイプこれは上ホゾを天真のホゾのようになだらかななテーパーをつけます。
・最高機種のアンクル真のホゾ、上下とも受け石がついているタイプは 上下ホゾとも、天真のホゾのようになだらかななテーパーをつけます。

天真別作入れ替えと、ともにアンクル真別作入れ替えも大変骨の折れる修理作業です。