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2007年01月21日

●第210話(セイコー・ダイヤ・アジャスト機構について)

かつてのSEIKO高級腕時計:グランドセイコー、キングセイコーのテンプ受には、一部にダイヤ・アジャスト機構が付いていました。

ダイヤ・アジャスト機構とは
・緩急針微動調整装置(微動レバーを動かす事により日差の+-を調整する)

・片振り修正装置(可動ヒゲ持ち受とも言います。これをピンセットで動かす事により、片振り修正がいとも簡単に出来るようになりました。これが付いていない、かつての腕時計では、片振り修正をする場合、ヒゲ玉に細いドライバーを差し込んで回していちいち調整したものです)

・アオリ調整装置(ヒゲ受とヒゲ棒の間のヒゲゼンマイのアタリの隙間を微動調整する装置です)これらが3点セットでついている機構でした。特に<アオリ調整装置>が付いている為に等時性の調整が極めて容易になっていました。

腕時計はテンプの振り角により歩度も微妙に絶えず変化致します。このテンプの振り角の変化に対して歩度の乱れを出来るだけ少なくするのが、<等時性の調整>です。スイス高級腕時計には、この<アオリ調整装置>がほとんどついていなかったのに、SEIKOがこの装置を高級腕時計に設置したのは、当時の SEIKO技術陣の快挙だったと言えるかもしれません。(かってのインターナショナル社のように、ヒゲ受け・ヒゲ棒アガキを極端に微量(両当たりの固定化)にしている最高度の調整方法も存在しました)

その頃のグランドセイコー、キングセイコーには、テンプ姿勢差を是正するために、天輪の片重りを徹底して無くし、またヒゲゼンマイの偏心、及び重心移動による姿勢差を無くす為に特殊な形状の理想内端カーブをつけたり、ヒゲゼンマイの外端にも理想曲線をつけて精度を高めていました。

これらの機構と共に、精度を高めた要因の一つが高振動メカニズム(ハイ・ビート 8~10振動)の登場です。テンプの振動数が高くなれば、テンプの回転運動が安定してきて、等時性、姿勢差、においても高い精度が実現できます。

腕に携帯する腕時計は、手の動きによる、腕時計のテンプの姿勢の変化や、手の衝撃等によって、常に歩度の乱れの原因を絶えず生じさせていますが、ハイ・ビートになると、外部からの姿勢・衝撃の影響を非常に受けにくくなり、携帯中も静止時に近い精度を得る事が、容易に出来るようになったのです。30年以上も過ぎたにもかかわらずその頃のKS・GSが現行のGSに優るとも劣らない高精度を維持・再現出来るのもこれらのお陰なのです。

最近のETA社汎用ムーブメントCal.2892-A2やCal.7750のテンプ受にもSEIKOダイヤ・アジャスト機構を簡素化した機構が取り付けてあります。