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2007年01月21日

●第211話(シチズン・音叉式ハイソニックについて)

最近、メールで音叉腕時計の修理依頼の問い合わせがよく来ます。しかし動力源の電池である1.35VVの水銀電池が生産終了で入手出来なくなり、お断りせざるをえない状況です(一時的に動かす事は出来るのですが、弊店ではその方法は選択していません)。

音叉腕時計は皆様がご存じなように、1960年にブローバ社が開発売り出した高精度のエレクトロニクス腕時計です。それまでのゼンマイで動く高級機械式腕時計(クロノメーター級)の精度を遙かに凌駕する、正確さを持ち合わせていたために消費者の方は驚嘆したものでした。

でも当時の価格で、10万円前後という高価格帯であった為になかなか普及いたしませんでした。それに目をつけたシチズン社(当時の社長・山田栄一氏)がブローバ社と技術提携をして1975年に資本金9000万円で(株)ブローバ・シチズン社を立ち上げ、山梨県富士吉田市に大規模な工場を設立しました(富士山の裾野にそれは見事な工場群が出来上がったのです)。

当初月産18,000個、年産50万個のペースで、従業員は320名という社運を賭けた大規模なプロジェクトでした。生産効率を高めた為に、画期的なコストダウンに成功して、小売り価格2万円台にまで下げる事に成功したのです。このことによりシチズン製音叉腕時計ハイソニックは爆発的な勢いで普及するだろうと業界関係者に思われていました。しかしながら、そのシチズン経営陣トップの思惑は見事に外れてしまったのです。

そこまで行きつくまでに、シチズン社が大変な努力をしたにもかかわらず、ライバルのセイコー社が音叉よりはるかに精度の良い廉価版の水晶発振腕時計(セイコークォーツタイプ2)を売り出した為に、悲しいかなシチズン音叉時計ハイソニックは、セイコークォーツに負け、市場に登場してわずかな命で消え去る運命になったのです(音叉腕時計に固執し過ぎたためにシチズンはクォーツの開発に他社より出遅れたと言えるかもしれません)。

おそらく、アンティークウォッチ愛好家の方でシチズン・ハイソニックを所有している方は、非常に少ない数だと推察しています。万が一いつの日か、 1.35Vの電池が製造メーカーにより再生産されたなら(難しいでしょうが)、改めて見直しされる腕時計と思っています(何故ならインデックス車は直径 2.4mmに320個の歯が切ってありコイルの電線の太さは毛髪の5分の一,十数ミクロンという極細でした。当時としては驚くべき技術だったのです。機械時計のように音叉腕時計にも見事な復活が将来あり得るのでしょうか?)