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2007年01月21日

●第208話(時計設計師と時計技術者)

作詞家、作曲家の関係に似たものに、時計設計技師と時計技術者の関係があります(時計設計技師は姉にあたり、時計技術者は妹の関係でしょうか)。時計技術者は、あるいは時計調整者、あるいは時計職人、あるいは時計修理技能士、あるいは時計修復師、あるいは時計組立工などと呼ばれたりします。

日本で著名な時計設計技師と言えば、セイコーの井上三郎氏、東谷宗郎氏、依田和博氏、久保田浩司氏、小牧昭二郎氏、リコー時計の末和海氏、オリエント時計の小野茂氏、シチズン時計の岩沢央氏でした(その中で末和海先生、小野茂先生はCMW取得者でもありました)。

日本で時計調整者として名を轟かせた人は、諏訪セイコーに在籍した中山きよ子氏、稲垣篤一氏、小池健一氏、野村荘八郎氏が有名で、かつてスイス天文台コンクールで活躍された人々です。現在、セイコーでは桜田守氏、大平晃氏がセイコーの高級機種の調整を専門にしておられる代表的な人々です。

スイス時計王国には、世界中に知れ渡った高名な時計調整者がオメガ社にいました。デッキクロノメータを長年に渡り調整して、天文台コンクールで絶えず上位に位置しつづけた人にアルフレッド・ジャカール氏がいました。また、OMEGA 30mmを専門に精度調整して天文台コンクールに出品し続け、いつも最優秀調整者として褒賞された人に、ジョセフ・オリー氏がいました(この人こそ繊細な神の手を持った調整技術者として世界中が評価していました)。

どんなに素晴らしい機械を設計しても誰も褒賞はされなかったのですが、天文台コンクールの精度競争において優秀な成績を残した時計技術者には、褒賞制度がありました(時計設計は個人がするのではなくグループ・課で開発するために褒賞が無かったものと思います)。

ほとんどの時計技術者と言えば、時計職人(時計修理技能士)ですが、アンティーク時計を修理・修復する人をあえて時計修復師と呼ばれたりします。今春、メカ式GSの生産現場である盛岡SEIKO工業(高級時計課)の責任者の方と電話でお話しする機会があり、現行GSの改良・改善点を提案したことがありましたが、その方は「時計設計課と相談して善処したいと思います」と語られ、時計設計課を持ち上げた話し方をされておられました(時計設計技師あっての時計技術者という意識があったためでしょうか。今では、コンピュータを駆使して基本的理論をマスターしていれば、誰もが時計設計を出来る時代になったのです。昔は製図工具を丹念に使用して設計・製図を引いたものなのです)。