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2007年01月21日

●第191話(プラスチック樹脂歯車)

豊橋市にある中小企業(株)樹研工業(松浦元男社長)が、時計産業に大きく貢献している事をNHKの番組を見て知りました。1/1000gのプラスチック樹脂製の歯車を製作する事に成功し、日本と香港の腕時計メーカーにパーツ(歯車)を納品している、という事です。

そう言えば、クォーツムーブメントの歯車はほとんどがプラスチック樹脂で出来ています。クォーツの心臓部・ステップモーターでさえ、プラスチック樹脂を採用している事に出会ったりします。ステップモーターの回転トルクは非常に弱い為に、歯車を軽量化・小型化しないと、十分な作動がしないものと思います。

最近、樹研工業は2億円の設備・開発投資を行い、1/100,000gのプラスチック樹脂製の歯車を製造することに成功したそうです。どれほどの大きさかと言えば、直径は髪の毛の太さ位の大きさです。余りにも究極な小ささの為に、それを応用する製品はまだ見つかっていないという事ですが、医療分野にも将来大きな展望が開くものと私は思っています。

おそらく(推測ですが)、この開発を知ったスウォッチグループ(ETA社)?がこの会社の技術力に目を付け、精度の高い自動車のスピードメーターを開発するために、担当者が会社を訪問しました。開発費を丸抱えの好条件で契約したそうです。

この樹研工業の売り上げの何割かが、時計メーカーに収めるプラスチック樹脂歯車だと言うことです。中部地方の一中小企業が世界中の時計メーカーを相手にしているなんてすごいことですね。

最近頻繁に各社のクロノグラフに採用され出した、ETA2892A2をベースとした2階建てのクロノグラフ(デュボア・デプラ社製モジュール搭載)や、 ETA2890-2の2階建てのクロノグラフムーブメントのクロノグラフ機構にプラスチック樹脂歯車が使われている事があります。かつてプラスチック樹脂歯車を採用したクロノグラフに故障が多いというクレームがあり、数年で生産中止に追い込まれていったクロノ・キャリバーが少なからずあります。

この2階建てのクロノグラフは、木造平屋建て(自動巻ムーブメント)の2階部分に、鉄骨コンクリート(クロノグラフ機構)を建て増ししたようなムーブメントです。将来、どのような運命をたどるのか・・・言葉は悪いのですが少し不安な気持ちがしないでもないです。クロノグラフムーブメントは手巻きに名作が多いのですが、自動巻クロノグラフムーブメントで安心して使用出来る機械は、今や既に名機の仲間入りを果たした汎用クロノグラフムーブメント:バルジュー7750です。

このムーブメントはクロノ歯車部分にプラスチック樹脂歯車を採用しておらず、長年の使用に耐えられる設計がされています。この根拠によって多くのスイス時計メーカーがバルジュー7750を採用しています。やはり、機械式クロノグラフ腕時計の歯車にはプラスチック樹脂を使わず、金属歯車で充分動くメカを設計して欲しいと思っています。