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2007年01月21日

●第167話(なぜメカ式を買うべきか)

最近、スイス四大高級腕時計メーカー「Pia…」のクォーツの修理依頼を受けました。
K18金無垢ケースで云百万円もする高級機種なので、どんな素晴らしいクォーツの機械が入っているか裏ブタを開けるまでワクワクしていました。

しかし、中の機械を見てビックリ落胆しました。何とETA社Cal.956-112が入っているではありませんか。ETA社Cal.956-112 の姉妹キャリバーCal.956-114は、ムーブ一式が僅か1,200円で入手出来る代物なのです。云百万円もする腕時計の中の機械が…千円?では消費者を煙に巻いていると言っても言い過ぎではないと思います。

クォーツが登場した40年前頃は、おそらくムーブメント単体の値段は10万円前後したものと思いますが、最近のマイクロエレクトロニクス技術革新で、驚愕するコストダウンに成功しています。

例えば、セイコー(タイム・モジュール)の13種類、シチズン(ミヨタ)の15種類、スイスETA社の17種類、RONDA社の9種類、ISA社の 4種類、フランスエボッシュの4種類、のクォーツ・ムーブの2、3針又はカレンダー付きのムーブメント単体は時計店に何と600円~2,500円で入ってきます(勿論、GSクォーツ、ザ・シチズンのクォーツ・ムーブはそれなりに高いでしょうが)。

このことからもわかるように、最近のクォーツ腕時計の機械は想像を絶する安さなのです。中古(アンティーク)腕時計市場でクォーツが人気がなく、格安の値段がつくのがわかるというものです。

高級クォーツ腕時計を買う人は、この事をハッキリ認識して、買うべきではないかと思います(目まぐるしい技術革新で10年も経てば時代遅れの骨董品になってしまうのがクォーツの運命なのかもしれません)。それと比較して、メカ式はどんな安い時計を買っても、クォーツほど安い機械は入っていないと思います。クラブツースレバー脱進機である限りどんな安価であろうとも高等技術者にかかれば精度が出るのがメカ式です。

クォーツ・ムーブメントが余りにも安く生産できる為に、クォーツの修理を依頼受けたメーカーのサービスセンターが、分解掃除という手間と時間とお金のかかる事をしないで、新品ムーブとごっそり交換してしまうという荒療治をしてしまう事は、この理由で判って頂けると思います。

時計職人は、クォーツ修理依頼を受けてそのような事をすれば信用を失いかねません。なぜなら、交換新品ムーブには地板に完成メーカーの名前が印刷されていないからです(エボッシュ名は刻印されてはいますが)。どんな安いクォーツ・ムーブメントでもあろうとも、修理料金を頂く以上、時計職人は時間をかけて分解掃除をしなくてはなりません。矛盾しているようですが、これが正当な仕事なのです。