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2007年01月21日

●第146話(ヒゲゼンマイについて)

K市の素敵な女性から、時計修理の依頼を受けました。

最初はお母様からプレゼントされたグッチのクォーツ腕時計でした。K市内にあるD百貨店の時計売り場に持って行ったところ、修理受付けを断られ、インターネットで当店を検索して、持って来られました。水・汗等が入り、錆びていましたが、OHして修理完了しました。

感激されたその女性は、後日、伯母様から頂かれたインターナショナルの手巻き婦人用腕時計Cal、41の修理を持って来られました。30年間、時計店を経営してきて、インターナショナルのムーブが一番好きだった私は、久しぶりに懐かしい感動を覚えながら、この時計の修理をしました。現在のIWCはほとんどETA社のムーブメントを搭載しています(この時計は修理実績に載っています)。このインターナショナル婦人用手巻き腕時計の機械の素晴らしさは、言語に言い表せれない程のものでした。特に、2本のヒゲ棒の間のヒゲゼンマイの両当りの隙間が、一条の光がわずかに差し込むほどの微量なものでした。マイクロで測れたとしたら、おそらく0.005mm以内のものだったに違いありません(何故、この微量な隙間にこだわるのかと言えば、隙間が大きいのとは全然、短弧長弧との等時性が違うのです)。

30~40年前のインターナショナル時計会社の何十人もの技術者が、ヒゲゼンマイの外端曲線をこれほどまでに調整する技術能力を持っていたことに脱帽致しました。

S県のK様から修理依頼を受けたキングセイコーCal.4500A(第二精工舎製、メーカー出荷精度等級、日差-10~+15秒)、グランドセイコー Cal.6156A(諏訪精工舎製)もヒゲ棒とヒゲ受けの間のヒゲゼンマイの両当りの隙間が、上記のインターナショナルと匹敵する隙間に調整できる装置が備わっていました。キングセイコーの場合は、レバーを動かす事により、ヒゲ棒隙間を大きくしたり小さくしたりする事が出来、グランドセイコーの場合は、ネジを動かす事により、ヒゲ棒間のヒゲ両当りの隙間の量を調整出来ました。

セイコーの腕時計を修理をする度に、いつも思うことは、本当にこの会社は良心的な素晴らしい機械式時計を製造する会社だと痛感させられることです。このセイコー時計会社の良心的な社風は創業者:服部金太郎翁の精神が今日まで脈々と受け継がれてきたものに違いありません。

こんな逸話があります。明治時代、やっと軌道に乗った精工舎に火災と言う不幸が襲った時でした。お客様から預かった修理品を、何百個と焼失してしまい、途方に暮れた社員に向かって服部金太郎翁は「全ての修理を預かったお客様に、それに相応する以上の新品の腕時計を差し上げなさい」と言われたのです。

その行為により、精工舎の名声はますます高まっていったのです。現在の厳しい不景気の状況の中、このような超良心的な会社が生き延びていくのは大変でしょうが、有名上場会社の不祥事が続発する今、模範として永久に栄えていって欲しい会社です。