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2021年06月15日

●続時計の小話・第137話(時計産業におけるスイス、日本、中国の競争)

スイスメイドと表記が許されているスイス製腕時計でも、外装部品や内装部品のパーツ、文字板、サファイアガラス、ケース等が著しく最近技術の向上が発展しているアジア諸国(中国、タイ、モーリシャス)などのパーツ製造会社から輸入調達しているケースが一段と増えつつあります。

スイス政府はスイス国内の時計パーツ製造会社を保護するべく、スイスメイドの表記の条件を大幅に厳しく変更しました。今までは駆動部分(ムーブメント)の製造コストが50%以上であれば、 スイスメイドという表記が許されてきました。

アジア諸国の時計パーツ製造会社の技術の発展、コストダウンにより、スイス国内のパーツ製造会社が衰退する一途の道を辿るのではないかという危惧が生まれ、今年は時計製造コスト全体の60%以上がスイスで生産されているものに対してのみスイスメイドという表記が許される様になりました。

世界の車の生産量もメーカー別に分類すればアメリカ、日本、ドイツのメーカーがダントツでシェアを大きく占めていますが、生産数量国で言えば圧倒的に中国が一位を占めており、今後この勢いが止まる気配は全くなく、さらに差が開くに違いありません。将来の主流を占めるであろう電気自動車の生産量においても中国が圧倒的に世界で優位に立っています。

腕時計の世界的シェアにおいても現在では、スイス、日本が総生産額の面では圧倒的な優位に立っていますが、数量に限定すれば、中国が世界一になるのはおのずと目に見えて予想出来ます。

日本時計メーカー、セイコー、シチズン、カシオ等の腕時計の総出荷本数は毎年減少傾向にあり、スイス時計メーカーも輸出量は減少傾向にあり歯止めがかかっていません。

電気製品(箱物)、パソコンの生産量が世界で中国が圧倒的にシェアを占めている現在、日本時計業界の一番の危惧する点は中国時計メーカーに負けない新製品の開発、コスト削減等の企業努力がますます必要になってくるのではないか、と思われます。

キャリアウーマンが社会進出して活躍している現在、婦人用の高級腕時計の販売は日本では例外的に進展しています。セイコーはそれをいち早くキャッチして女性用グランドセイコーの拡充を図って、最近10機種の新作婦人用GSを追加販売しました。

また、セイコーの海外直営店舗は2017年現在、67店舗ですが2019年3月までに、100店舗に増やす計画を発表しました。高級腕時計分野ではスイス製に後塵を拝しているセイコーが積極果敢に世界に打って出る覚悟だと思われます。

ルイ・ヴィトングループのゼニス社が機械式腕時計ムーブメントで342年ぶりの新発明をし、魅力ある時計を販売しました。中級品腕時計の100倍とも言える日差0.3秒という、画期的な機械時計としては高精度のムーブメントの開発に成功しました。

機械式腕時計と言えば、1675年に発明されたテンプとヒゲゼンマイ(調速機)の仕組みにより駆動しているのですが、ゼニス社が開発したメカ式ムーブメントはテンプとヒゲゼンマイの調速機の代わりに単結晶シリコン製・新型オシレーター(発振器)を採用し高精度を実現しました。

シリコン製を採用する事により、摩擦係数が大幅に減少し、注油が必要無くなり温度、磁気等の歩度を乱す原因からも解放されるという優れたムーブメントに仕上げました。しかしこのムーブメントが果たしてユーザーの方々に支持されるかどうかは不安要素で注目です。