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2021年06月15日

●続時計の小話・第124話(ジョン・ハリソン)

先日、BSで映画『経度への挑戦』という洋画が放映されていました。

この映画の主人公はジョン・ハリソンという時計史に残る有名な人物です。(1722年にはグラスホッパー脱進機は発明しています。この脱進機は長い間クロックの脱進機として採用され続けた有名な方式です)

本職は大工なのですが、独学で時計学・物理学・機械学を学び、繰り返して精度の良い海上時計(クロノメーター)を作り続けた人物です。その動機は当時の大英帝国が正確な海上時計を作り上げた時計師に大枚な賞金(当時のお金で500ポンド)を授与したからです。

ジョン・ハリソンは協力してくれた息子と共に船舶時計としては、想像を絶する高精度の時計を作り上げる事に成功しました。現代のクォーツに匹敵するような高精度の機械時計を作りました。月差数秒の誤差という、とてつもない高精度を持っていました。

彼が作ったH4タイプは1761年に61日間で45秒の遅れ、1764年に156日間で54秒の進みでした。

H5タイプは1764年5ヶ月間の航海でたった15秒の誤差という途轍もない超高精度の海上時計を作り上げたのです。波の大きな揺れを諸にかぶる当時の小型帆船の悪環境下の中でのこの精度にジョン・ハリソンは天才時計師だと評価しても誰も異を唱える人はいないでしょう。

大英帝国が何故に高精度の海上時計を作った時計師に高額な報奨金制度を作った理由は、正確な海上時計により、船舶の正確な位置が把握出来たからです。

正確な海上時計が無い為に船舶が難破したり、とんでもない場所に航海して行き先を誤ったりしていたからです。正確な海上時計(クロノメーター)を手にした大英帝国は、海上国家としておおいに繁栄し、世界中に植民地を手にしてライバル国である、スペイン、ポルトガル、フランス等を凌駕して、繁栄の道を築き上げたのです。

大英帝国の繁栄の礎を築いたのは、他ならぬ時計師が大いに貢献したからに他ありません。戦後、敗戦から目覚しい発展を遂げた日本も同じ様な事が言えます。46cm砲を搭載した巨艦戦艦『大和』『武蔵』を設計製造した技術者がその後の日本の各工業生産の復興の中枢になって働いて、日本の発展に大いなる影響力を持ったのは現代よく知られている事実です。戦艦大和は現代の造船技術を以ってしても容易に作り上げる事が出来ない最高峰の船舶・戦艦だったのです。