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2021年06月15日

●続時計の小話・第119話(初代グランドセイコー)

先日、金沢で大規模な骨董市が催しされました。

商売柄、アンティークウォッチに関心があるため、良い出物があれば、購入しようと思い、出かけてみました。300坪はあると思われる広い会場に、日本全国からたくさんの骨董商が参加していました。掛け軸、置物、茶椀、壷、仏画、仏像、中古宝飾品、アンティークウォッチ、家具等が数多く陳列されていて、見ていて楽しい時間を過ごしました。

骨董品と言えども、価格はどれも安くなく安易に衝動買い出来る価格ではないため、財布の紐はなかなか緩みませんでした。

その中で、非常に関心がおきたアンティーク腕時計が陳列されていました。名古屋から来られた『the moon』という骨董業者でセイコーが1960年8月に発売した、初代グランドセイコーが提供されていました。そのGSには歩度証明書(15日間に渡る、各姿勢差の歩度検定が記載されている手書きのもの、スイスBOクロノメーター優秀級基準に匹敵する精度)とクロノメーターに関する説明書の二通が添付されていました。

今まで、初代手巻きのグランドセイコーは何度も修理した経験はありますが、実物の歩度検定書を見るのは初めてで、記載されている精度をじっくり眺めて見とれていました。(1998年に復活した機械式GSにはしばらくの間、静的精度の各姿勢差の歩度証明書は添付されていましたが現行のGSには歩度証明書は添付されていません。少し残念な気がします。携帯精度-1~+10と記載されているのみです)

初代手巻きグランドセイコー購入したくなったので、the moonの店主に頼んで中の機械を見せてもらいました。さすがに55年ほどまえの時計なので、ケースがGF(金張り)であった為に、金張りが剥がれ落ちて、錆が少しありました。それは仕方ないので目を瞑って、値段を問い合わせてみると、税込みで¥700,000丁度にすると言われました。

自分の予想した価格よりもはるかに高かったので、諦めざるをえませんでしたが、そこの骨董店主人と何故そんなに高いのか価格交渉をしてみたところ、時計本体だけなら\200,000で販売出来るが、時計ケースと歩度検定書とGS説明書が揃って残っているものは非常に珍しくて、時計ケースと歩度検定書とGS説明書だけで¥500,000の値打ちがあるものだと説明を受けました。

それを聞いて半分納得せざるをえないものでした。グランドセイコーが世に出て丁度来年で55年になります。恐らくセイコーは来年にGSの記念碑的な限定バージョンを市場に出してくるものと思われます。時計マニアにはグランドセイコーファンの方が非常に多くおられるので期待して注目されていたらどうかと思います。

グランドセイコーの開発当初のコンセプトは『正確で、作りやすく、美しい』という3本柱を主眼において開発されたものですが、もう二つ付け加えるなら壊れにくく、修理がしやすい、という長所を持っていました。初代グランドセイコーは1959年に登場した、クラウンをベースに改良を重ねたものです。

トヨタ自動車が1955年に満を持して世に問うた、高級自動車クラウンが綿々と現在にも続いているものを思えば、グランドセイコーもそれに匹敵する、日本を代表する記念碑的な工業製品と言えると思います。

先週、石川県H市のHさんがオメガ・スピードマスターのOH修理依頼の為にご来店されました。その方が義父の形見の時計を持ってこられ、『この時計の値打ちはどの程度のものか』と聞かれました。

早速、関心があったので拝見させて頂くと、1969年、諏訪精工舎が発売したCal.6145A(25石)のGS自動巻カレンダー(10振動、スイス天文台コンクールで培った高振動技術を世に問うたもの)で、ケースが18金側の高級腕時計でした。初代手巻きのグランドセイコーは金張り仕様で、¥25,000(当時の大卒初任給の2倍)しましたが、この金無垢の61GSは恐らく、当時で¥200,000前後した高級機種であったと思います。

おそらく300個位しか生産されなかったものと思われます。その事をご来店して頂いたご婦人にお伝えしますと、ビックリされて早速、携帯でご主人にその内容を伝えておられました。

価値ある時計なので機能を復活させる為にOH依頼をされました。その時計は昨日、修理OH完了しましたので、弊店のHPにアップしていますので関心のある方は見ていただけたらと思います。