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2007年01月21日

●第179話(セイコーU.T.D(ウルトラ・シン・ドレス))

この間神奈川県の方から、セイコー社創業110周年記念で、18金無垢ケースに収められている『セイコーU.T.D 手巻き極薄腕時計』の分解掃除・調整の修理を受けました。

この時計のキャリバーはCal.6819A 22石で21,600振動、パワーリザーブ37時間。ムーブの厚さは何と1.98mmという極薄です。最初は1973年第二精工舎が開発したものです。精度等級は日差+25秒~-15秒のムーブでそれを新たに20年ぶりに復活した腕時計です。

ムーブの厚さ2mmを切る極薄時計を製造する時計メーカーは、それなりに高度な技術力がしっかりしていなければ作れないものなのです。スイス時計メーカーでも限られており、ジャガールクルト、オーディマ・ピゲ、パティック・フィリップ等の一流時計メーカーにしか製造できないむずかしい腕時計です。

かの有名な第二精工舎の時計設計技術者、井上三郎先生のゴーサインのもと、当時のセイコーの技術を結集してこの世に送り出されたのです。セイコーにとって思い出深い時計が近年の機械式時計の隆盛とともに復活し、クレドールやセイコーU.T.D等に搭載して最近また売り出したのです。

この時計を分解掃除するのは、薄型であるためにかなり神経を使いながら分解・組立・調整・注油をします。ちょっとした組立ミスで歯車のホゾが簡単に折れてしまう危険性を持った細さなのです。各歯車のアガキも極端に少なく本当に繊細な神経を使います。薄型に仕上げるために、香箱の裏ブタが無く、裏蓋の代わりに人工ルビーの受け石を数個地板に埋め込んであり、回転が滑らかになるように工夫がされていました。アンクルの竿は棒状ではなく、段差を付けた竿にして、おそらく耐震性を強化したものと思います。

この方法は昔、スイス時計メーカー「ウィラー社」が天府のアミダを渦巻き状にして耐震装置を強化したものと考え方は似ていると思います。この『セイコーU.T.D』は、現在セイコーインスツルメンツの盛岡セイコー工業で生産されており、これに携わる人は桜田守氏ら数名の極限られた優秀な技術者によって生産・組立されていると聞き及んでおります。キャリバーは基本の6810から6870、6898と派生的に生まれてきています。

特にスケルトン仕様のキャリバーK238は美しく見事と言うしか言えない芸術的な腕時計です。しっかりした作りのROLEXのムーブも最高にイイですが薄型は元来、私の好きなタイプの時計です(修理は薄型になればなるほど大変な作業にならざるを得ないのですが、苦労のしがいのある時計です)。