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2007年01月21日

●第178話(帯磁について)

この間、IWCインヂュニアのOHを受けました。この時計のムーブは、マニュファクチュールのジャガールクルト社から供給されています。非常に薄い繊細な自動巻カレンダー付きの腕時計です。ほぼうまく仕上がり、歩度検定機でもそこそこ精度が出て、静的精度の日差を調べたところ、各姿勢差とも5~10 秒以内に収まりました。

ところが腕につけてみると、何と日差が30~50秒ほど狂うのです(まさかIWCインヂュニアだから磁気の影響ではないだろうと勝手に思いこんでいました。帯磁したガンギ車ですとピンセットを近づけるとクルクル回るように踊り出すのです。こんな反応は全くなかったのです。)40~50年前のアンティークウォッチならこれで許される精度なのですが、何せスイス高級腕時計のIWCなので、もう少し精度を絞り込まなければなりません。

折角出来上がったのですが、ムーブをケースから取り出し、どこに原因があるのか、心当たりの所を徹底的に調べ上げました。調べれば調べるほど異常が無く、どこが原因でこんなに時計が進むのか原因がなかなか掴めませんでした。

インヂュニアと言えば耐磁性能が強い腕時計で、機械の中が耐磁素材で覆われている事で有名です。先入観が強かったために、帯磁しているとは全く考えていなかったのですが、万が一を考えて一応、各パーツを磁気テスターで調べてみました。

まさかと思い、全てばらして各パーツを磁気テスターで調べてみると、ほんの少し磁気テスターの針が微妙に動くのです。「あぁ、これが原因か!」とわかり、全てのパーツを一個一個、個別に消磁しました。手間をかけ再度組み立ててみると、今度は静的・動的精度にも日差の差はほとんどありませんでした。修理の前に、先入観を捨てることの大切さを学びました(OH後、全ての時計を磁気抜きしているにもかからわず、磁気がわずかでも残るということを再認識した次第です)。