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2007年01月21日

●第180話(初代・自動巻のGS(グランド・セイコー))

セイコーが1968年12月に初めて発売した自動巻グランドセイコー・GSの修理を、千葉県の方から2個依頼受けました(GSのファンは本当に多いんだなーと思ってしまいます。グロリアス・シチズンはどうなのかな?ここ十数年1回もOHしていません)。
この自動巻のGSは手巻きのグランドセイコーを発売して8年過ぎてから発売されたものです。

この自動巻機構はマジックレバー方式と呼ばれるもので、極めて単純な構造にも関わらず、巻き上げ効率はとても優秀でした。(インターナショナルCal.852、853の自動巻に似ている方式です)

この方式は1959年に商品化されたセイコー・ジャイロマーベルによって始まりました。ジャイロマーベルはツメレバー方式でしたが、それに改良を加えてマジックレバー方式にしたのです。この自動巻機構の唯一の弱点は、定期的にOHしていれば何ら問題はないのですが、油が枯渇してくると摩耗が激しくなり、偏心ピンがへたって細くなるという故障がおきたのです。

M氏のGSは定期的にOHしていたのでしょうか偏心ピンには全然異常が見受けられませんでした。30年以上経っているのにガンギ車の衝撃面の歯の摩耗は、10振動ハイビートにもかからわず見受けられませんでした。巷間、噂になっているハイビートは寿命が短いというデマは全く根拠がないことがわかります。(但し定期的にOHしているという条件付きですが)

この6145Aキャリバー(直径27.4mm、厚さ5.6mm、25石・ムーブの厚いのが欠点と言えば欠点でしょうか)は10振動のハイビートで、平均日差+6~-3秒に収められている高精度の機械でした。(当時の国際的なクロノメーター規格の上をいくものでした)輪列及び自動巻機構は前年の 1967年に発売された「セイコーファイブ・デラックス Cal.6106とCal.6119A」とほとんど同じものでした。違うと言えば、5振動のロービートから10振動のハイビートに変わったぐらいです。(よってこのセイコーファイブデラックスも普及版の低価格であるにも関わらず非常に優れた腕時計でした)

このGSは高精度が出る非常に優れたムーブメントでしたが、部品数も極端に少なく組立も容易で、当時の諏訪精工舎の時計設計技師のレベルの高さを窺い知ることが出来ます。(秒針規制レバー・ハック機能も1個の単純なパーツで簡単に作動するものでした。比較する意味でGS45系は3個のパーツの連結ででハック機能が作動します。そのころの諏訪精工舎は紛れもなく時計設計力・精度においてダントツで世界一だったでしょう)

今日、機械式時計の世界最高峰と誰もが認めている「パティック・フィリップ」の自動巻よりも、部品数は半分近くで、分解組立調整もいとも簡単に出来、精度もでる代物です。このGSには諏訪精工舎が満幅の自信を持っていたのでしょう、地板に固有のムーブメントナンバーが誇らしげに刻印されていました。

補足・・・前回お話しいたしました第二精工舎(現在のセイコーインスツルメンツ)の井上三郎先生は時計設計技術者として優れた功績を残された人でしたが経営管理能力の手腕も高く評価され、後年、第二精工舎の副社長にまで登り詰めた方でおられました。