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2007年01月21日

●第99話(ジャガールクルト・メモボックスについて)

奈良の読者のU氏から、先月ジャガールクルト・メモボックス(アラーム機能付き)の修理依頼が舞い込みました。生前の父親が大切に愛用していたという思い出の腕時計で、ネット上で知り合った人の紹介で当店に送られてきました。

受け取ったときは、もうまさしく骨董品の部類で、ケース及び裏蓋の咬みあい部分が錆びて朽ちており、ケースが閉まらない状態で直らないのではないかと思いましたが、悪戦苦闘の上、やっと修理完了しました。

分解掃除、天真ホゾ矯正(テンプに耐震装置がない旧タイプ、ホゾが折れたり曲がったりする)、ゼンマイ調整等を修理しましたが、平姿勢では動くのに、実測のために腕につけると数時間で止まるという難物でした。原因は、テンプ受けのアガキが若干少ないために抵抗が大きく、0,03mmの厚さのナイロンを噛ませることにより、アガキ調節して直しました (現行のロレックスにはテンプアガキ調節する機構が付いております。さすがですね)。

こういう名作品を蘇らせる事は、時計職人として最高の充実感を味わえると共に、職人冥利に尽きる仕事なのです(万が一直らない時はどっと疲れが出るのですが、直ってやれやれです)。

この時計は1956年、世界有数のマニュファクチュールのジャガールクルトが、世界で初めてアラーム付きの腕時計を他社に先駆けて生産した由緒ある時計です。50年近く過ぎた今でも改良を重ねながら生産続行している、人気のあるシリーズです。
現行品ではSS側で50万円、18金側で105万円の2機種のみ生産されております。現行品のムーブメントは進化しながらも、ほとんど50年前の物と基本的には一緒なのです(ビックリされたでしょうか?)。他に、アラーム機能が付いたマスター・レヴェイユ(SSが60万円、K18側が132万円)も2機種売り出しております。

45年も前に、こんな高価でスイス時計の名機を買い求めておられたU氏のお父様とはどのような方だったのでしょうか?多分とてもお忙しい方で、時間にとても几帳面で厳格な方であっただろうと想像します。

アラーム音(油蝉が鳴く音に似ています)は25秒間鳴り、リンが裏蓋に付いているので、ハンマーの叩く振動でも、決められた時間がハッキリ解ります。セイコーベルマチックはリンがミニッツリピーターのように棒リン状になっているために、音もやや静かで振動は少ないです。どちらが良いかは好みの別れるところです。あまりにも珍しいのでHPに載せてあります。本当は直に皆さんに見て欲しい時計なのですがそれもできませんね。ご来店いただいた一部の方にはお見せして感動しておられました。