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2007年01月21日

●第95話(時計旋盤の名人・大川勇先生について)

東北の岩手地方に在住しておられました時計旋盤の名人・大川勇先生のことを書きたいと思います(菅波錦平先生も東北のいわき市に住んでおられました)。

私がこの業界に入った頃にはすでにご高齢でおられました。面識は一度もなかったのですが、先生のお書きになった2冊の本は、生涯私には大変役に立ちました。その本の名は「通俗時計学」いわき時計技術研究室発行・「時計旋盤工作」(株)村木時計発行でした。どちらの本ももう絶版ですが、とても素晴らしい内容の深い本でした(これからの若い技術者の皆さんには何とか入手して是非読んで貰いたい本です)。井上信夫先生も絶賛して、購読を勧められておられました。

大川先生が何十年にも渡り苦労して会得した技術を惜しげもなくさらけだして、未熟な技術者の指針になるように書かれておられました。一般的には、苦労して修得した時計技術を他人に教えることに抵抗を覚える人が多い閉鎖的な時計業界でしたが、大川勇先生は率先して自分の技術を披瀝されておられました。先生のその行動パターンは模範となるような立派なものでした。

わたしの技術向上にも非常に役に立ちました。時計旋盤技術のことがサッパリ解らなかった私は、若いとき恩師のK先生から教えを乞うために3~4回大阪に出向きました。全くの初歩から親切丁寧にK先生は手取足取り、お教え下さいました。1本のスチィール棒から天真・巻真が出来た喜びは大変なものでした。K先生から教わった基本的な旋盤技術と大川勇先生の本は、私にとってそれ以降とても役に立ちました。

30年ほど前には日本では松田光製(アロー旋盤2種類)・ゼム製時計旋盤(アバンテ号)の3種類がありましたが、今では生産をどちらもストップしております。現在ではスイスベルジョン製・アメリカボーレー社製等、何十万円も出さなければ買えない高級時計工具になってしまったのは至極残念です。機械時計の修理が増えてきた今、再度若い技術者のために低価格の時計旋盤を日本で生産再開して欲しいと願っております。時計旋盤技術は時計修理の根本であり基本なのです。時計旋盤を自由に駆使できてこそ一人前の時計修理技術者なのですから。