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2007年01月21日

●第75話(今週のアンティーク時計について)

先週の時計の小話に、アンティーク時計募集という記事を載せてスゴイ反響がありました。1番の収穫は、ビックリするような時計が入手出来たことです。それは、1964年の東京オリンピックに公式計時を担当したセイコー舎の計時機器と全く同じストップウォッチを4個(五分の一秒計・十分の一秒計各2個ずつ)手に入れられた ことです。

私はそれまで、日本でオリンピックが開催されるのだから、セイコー舎が選ばれたものと思っておりましたがそれは大いなる誤りでした。この新開発したセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチが、国際陸連理事のポーレン氏から当時として最高の評価を受けたからなのです。氏の激賞によりセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチが東京オリンピックに公式計時として栄えある名誉を獲得したのです。

この度手に入れた物は、第二精工舎の技術陣(井上三郎氏・石原達也氏)が苦心惨憺の末、計時誤差を補正(それまでのストップウォッチはスタートするときレバーで引っかけるようにスタートするために、若干の進みの誤差を生じさせたもの。私も何回となく修理したストップウォッチは全てそういうスタート装置でした)する機能を搭載した、世界初のスプリットセコンド・ストップウォッチを開発し、それが東京オリンピックに採用されたものと同じ品なのです。そのストップウォッチが今、私の手元にあります。

裏蓋を開けてムーブを見ましたがとても美しく、芸術品を見ているような感動を覚えます。地板は金メッキされ、高級時計にある波状模様が施され、テンプ受けがブリッジ式になっており、文字盤も装着誤差をなくすためにネジ止めを採用しています。こんな美しい贅沢なストップウォッチをいまだかって見たことがありません(当然、巻き上げヒゲを使用しており、テンプにはミーンタイムスクリューが取り付けてあります。極めて誤差が出にくい構造です)。

セイコーの資料博物館に問い合わせてみたところ、当時の価格で五分の一秒計が24000円・十分の一秒計が25000円もしたということです(その頃の大卒の初任給が2万円の時代で)。今の価格で行くと20万円前後するでしょうか?セイコー東京本社のF原さんのお話では非常に珍しいお宝物です、とのことです。

中のムーブは極めて良好で手を入れる必要が全くないほどで、ケースとリューズが少しくたびれている程度でしょうか。この記念すべき時計を7万円でお売りしたいと思います(各2本のみ)。希望する方には裏スケルトン(透明のプラスチックで貼り付け)にします。

このセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチは、8年後の1972年札幌冬季 オリンピックにも公式計時として採用されたほど安定した精度を維持しておりました(実際には電気計測に取って代わられ、札幌では幻の公式計時メカ式ストップウォッチになりました)。