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2007年01月21日

●第72話(機械式クロノグラフのメカについて)

最近、浜松の読者の方より30~40年位前?のホイヤー手巻きクロノグラフの修理依頼を受けました(HPに掲載中)。ベトナムのアンティーク・ショップで購入された品で、中の機械は未熟な技術者にいじられ、相当ひどく壊されておりました。そう言えば、前回お話ししました贋作のオーディマ・ピゲの懐中時計もベトナムのアンティーク・ショップで買われたものでした。

浜松のS・Iさんと直に電話でお話しした所、ベトナムにはウォッチのアンティーク・ショップが一杯あるとの事で、それもビックリするような低価格で売り出されているそうです。ファンの方にとっては意外な穴場かもしれません。イイ品を低価格で購入すれば、旅費など簡単に浮くどころか、お釣りがでるでしょう。条件として真贋を見極める目があればの話ですが(最近の日本でのアンティーク・ウォッチの価格は異常と言えるほど高いですものね。私は何十万も出されるのでしたら新品を買われることをお薦めしますが。数百万もするトヨタ・セルシオも、15年も乗ればほとんど価値は無いも同然です。そのことを比較すれば、アンティーク・ウォッチの価格はつり上がり過ぎではないでしょうか。誰かが儲け過ぎているのに違い有りません)。

そのホイヤー分解修理後、時計としてはかなり調子が戻り、精度も準クロノメータークラス(日差15秒前後)にまで復活しましたが、クロノの機能が結局回復しませんでした。カム式のために摩耗が著しく、調整したと思っても何度も操作を繰り返したら誤作動が起き、時計も止まってしまうという事で、残念ながら元通りには戻りませんでした。

ピラー・ホィール式のアンティーク・クロノは何回となく修理しましたが、殆どがもとに復帰して正常に動くようになりました。やはり、ピラー・ホィール式の方が上を行くのでしょうか。

機械式クロノは大きく分けてカム式とピラー・ホィール式のムーブメントに分かれます。有名なゼニスのエルプリメロはピラー・ホィール式の代表的な時計です。

ランゲ・アンド・ゾーネCal951.1(現時点での最強のムーブと言われている)、ロレックス・デイトナの新型キャリバー4130、ジラールペルゴーの新開発のCal3080、セイコーが昨年新開発したCal6S77(セイコーは昔からピラー・ホィール式を採用。やっぱり良心的だなぁ)、かってスイス時計の名門がこぞって供給を受けたバルジュー社の名機Cal23ムーブ、1960年代のブライトリング・クロノナット・ナビタイマーに搭載されたヴィーナス社の175・178ムーブ(現在はETA社に吸収合併されカム式のキャリバー188に変更)、1940年代に開発されたレマニア社のキャリバー321(当時のオメガのスピードマスターに採用・NASAに公式採用された当時の最強ムーブ、現在はカム式のCal861に変更され、オメガのスピードマスター・プロフェショナルに搭載)、過去においてのロンジン・クロノ等はピラー・ホィール式の機構を採用した代表的なものです。

他方のカム式はパーツ数を減らすことにより簡素化され、量産向きに改良されたものです。主なものには現在のブライトリング腕時計のムーブ、オメガ・スピードマスター各種Cal1861、モーリスラクロア等はカム式です。

どちらが優秀なムーブメントであるかは評価が分かれるところですが、独断と偏見の私見では、歴史的な実績のあるピラー・ホィール式の方が耐久性・正確性・操作性で一歩優るのではないかと思っております(なんと言ってもピラー・ホィール式の方が動きに無理が無く奇麗ですものね)。消費者の方の好みも分かれるところかもしれませんが、自分のクロノがどっちの方式を採用しているのか知っているのも悪くないかもしれません。どちらかといえば高級志向がピラー・ホィール式、普及品タイプがカム式と言えるでしょうか?

時計業界ではクロノグラフのことをカラフと言っておりますが皆さんご存じでしたか。
アンティーク・ショップで『昔のカラフ見せて下さい。』と店員さんに言えば、目を 白黒なされるに違い有りません。

余談になりますが、ベトナムと言えば、南北ベトナム合併する前の南ベトナムのある大統領が北ベトナム戦争で敗れ、米国に亡命する時に、大量の金塊・米ドルを入国臨検の時に持ち出せないと知って、数個の良質の大粒ダイヤモンドルース(裸石)に交換し、それを飲み込んで亡命しました。そしてそのダイヤを排出して(汚い話ですみません)米国のユダヤ・ダイヤ商人に売却して資金を作り、スーパーマーケットを経営、今では成功者として有名になっているという話を以前あるマスコミから聞きました。

その頃亡命出来なかった資産階級の人々が、生活が困窮してノミ市に高級スイス時計を手放している為に、ベトナムに多くのアンティーク・ウォッチがあるのでしょうか?(私も一度行ってみたい国です。そして、懐中時計やIWC・GP・ナルダンのアンティーク・ウォッチをたくさん買ってきたいです。私の友人もこの間ベトナムに行き、純銀製の何重にも重なるお盆を買ってきてくれました。みやげを貰って値を聞くのは失礼とは思いましたが、余りにも高価に思えたので聞いてみたところ、ビックリするような安さでした。何万円もすると思ったのでしたが、その何十分の一ぐらいでした。アンティーク・ウォッチ・ファンの読者の方で一緒にベトナムにツアーを組んで行きませんか。日本で1個しか買えないお金でベトナムでは数個買えるのではないでしょうか。私が目利きしてアドバイスすれば読者の方も安心だと思います。実際のところ共産国ですので私1人で行くには少し不安なのです・・・。時計好きの人々と10人程で一緒にアンティーク・ウォッチ・ショッピング・ツアー旅行できたらこんなに楽しいことはありませんから)。

世界中で普遍性のある価値ある物と言えば、金塊かダイヤか米ドルのみなのでしょうか。その中にアンティーク・ウォッチは入らないのかなぁ。