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2007年01月21日

●第70話(時計の覇者・ロレックスについて)

ロレックスについては情報が巷に氾濫していて、読者の人の方がある一面では私より詳しい かもしれませんが、一部の方より是非にというリクエストがあり述べてみます (私がこの業界に入った頃はローレックスと呼びました)。

今日のスイス時計メーカーの機械時計に関しての見事な復興の根本的な原因の一つは、1970年代のクォーツ・クラッシュに打ちのめされた多くのスイス時計メーカーの中で、ロレックス社のみがクォーツ化に走らず、何知らず顔で黙々と高精度の機械式時計を作り続けた結果、世界中の時計愛好家からその企業姿勢が高く評価されたものでしょう。

腕時計にとって精度は非常に大切な要素だけれども全てではなく、普遍性のある高級ステータス性・実用性・ファッション性・伝統・技術力等の総合力に優れたメーカーが、メカ式オンリーでも生き残れることを実証したのです。均一化された優れた品質の高価格戦略の徹底したマーケティングにより、圧倒的な人気と支持を世界中の人々から獲得したのです。年間数十万個というとてつもない数のクロノメーターを何十年間にも渡り生産できる技術力はたいしたものです。確立したマニュアルとオートメーション化された生産工程は、きっと目を見張るものがあるのでしょう。ロレックス社が完全秘密主義に覆われているのも納得できるというものです。

ロレックス社の人気にあやかろうとしたわけではないでしょうが、ここ数年のスイスの他社時計メーカーの動きを見ていると、ロレックス社を反面教師にしているような感じです。

ロレックス社の歴史は以外と浅く、1905年にハンス・ウィルスドフによって英国ロンドンに開業しました。現在の生産量は年間推定80万個位でしょうか。ハンス・ウィルスドフの、時代を読む先見性・上手な販売企画力によって、後発メーカーにもかかわらず名実共に大きく発展したのです。資本の統廃合の再編化がすすむ現代にも、何らの影響を受けることもなく孤高の道を堂々と歩いております。

ロレックスと言えば、爆発的にヒットしたものを沢山創造輩出しております。
コスモグラフ・デイトナ、GMTマスター、エクスプローラー、サブマリーナー、シードウェラー、ヨットマスター等のスポーツ系。デイトジャスト、デイデイト等の実用本位の腕時計があります。不思議なことにロレックスはコンプリケーションを一度も手に染めたことはありません。あくまでも実用本位の腕時計を作る事に使命感を持っているようです。

弟分にチュードル腕時計がありますが、日本には残念ながら正規輸入代理店はありません。これも日本ロレックス社の戦略でしょうか(日本人は高級グレード指向が強いことを良く知っているようです)。アンティーク市場でチュードル腕時計(デカバラ・コバラ)はとても人気があるようなのですが。

技術的にも、1926年にオイスター(完全防水機構・ロックリューズ式)の開発1931年にはパーペチュアル(自動巻機構)の開発をしております。最近ではエルプリメロ(キャリバー4030)を採用していたデイトナがうち切られ、独自開発のキャリバー4130(28800ビート・72時間パワーリザーブ・ハック機能)を搭載したデイトナを発売して話題を独占しました。旧型とどちらが優れたムーブメントであるかは5~7年後には結論が出るでしょうが、私の推測では4030の方がおそらく上を行くのではないかと思っております。

そうなれば火に油を注ぐように余計プレミアムが付いて、ビックリするような値が付くのではないでしょうか。ロレックスは私の大好きな時計の一つで、IWC・GPのように高精度がでるムーブですが、カレンダー付き自動巻としては部品数がグランドセイコー等に比べてかなり多いのが唯一の難点と言えば難点でしょうか。その点、贔屓目で見てしまうのかもしれませんが、セイコーGS は簡潔で高精度のでる組み立てやすいムーブメントです。