« 第67話(時の流れとともに腕時計の人気も浮沈) | | 第69話(時計の形而上学的な思考) »
« 第67話(時の流れとともに腕時計の人気も浮沈) | | 第69話(時計の形而上学的な思考) »
2007年01月21日

●第68話(難物時計の修理について)

当店には、全国各地から時計修理の依頼が宅急便や郵便書留で送られてきます。
時計職人として自分の腕を信用していただき、これほど光栄な事はありません(この場をお借りして御礼申し上げます)。ましてや、どこへ持っていっても修理を断られた難しい超難物時計の修理依頼の場合、出来うる限り命をあたえて、再度動くようにする事は、お客様にも大変喜ばれ、時計技術者として冥利に尽きます。

しかしながらどんなに悪戦苦闘して努力しても正常に駆動しない時計が、私のケースで1~2割はあります。時間と、おまかせ料金を頂ければ殆ど90%以上直せる自信はありますが、限られた時間とお客様にとって大切なお金であるために、予定外の請求も出来ず、やむを得ず返却する時も時々あります。御依頼者の期待に添えるためにも、何とか昔のように元気に動くようにするため研鑽・研究する今日この頃です。

CMWの大先輩でおられる有名なM・K氏(氏の所にも全国より超々・難物時計が送られてきています。送られてきた10個の内8個は修理不能だと言うことです)は、修理不可能な難物を預かったときは依頼者にこのように言って断るそうです。『何十年にもわたって動いてきたのだから、もうそろそろ休ませてあげたらどうですか。もう、充分この時計は使命を果たしたとおもいます。 よく長い間動いてくれたと褒めてあげて、ながめて感謝してあげたら』と。

どんなに愛情を持って大切に使用した代々伝わる腕時計でも、寿命は必ずやってきます。時計として正常に動くように再現するには50~60年前の物が限界でしょう。
高額な家電製品でも約10年で壊れたらもうおしまいです。我が家の11年前に購入した、ナショナルのSVHSビデオ・マックロードNVーDS1(当時としては高級機種で定価25万円位しました)が最近故障して、メーカーに尋ねたらもう部品もないし諦めた方がイイと言う返事でした。その事を思うと時計は何て長持ちする機械なんでしょうか。家電製品の5~6倍の寿命がありますものね。こんなに長く持つ長寿命の機械は他には存在するでしょうか。

最近、隣町T町のK・Nさんからロンジン・クォーツ腕時計の簡単な修理依頼を受けました。金沢市内の大きな時計店を数軒回っても修理受付を断られた時計で(ある店では電池交換も断られたとのこと)何とか直して欲しいとのことでした(止まって、長短の針回しがうまく出来ない状態)。当店には友人の紹介でご来店頂きました。いわれをお聞きすると、海外旅行を行った記念に夫婦ペアウォツチで買った品で、思い出として大事に使いたいとのことでした。中のムーブを見てみますと、ETA社のCal255411が入っておりました(先月、修理したテクノス・クォーツ腕時計のムーブメントもETA社製でした)。

スウォッチ・グループに入ったロンジンは自前のムーブを最早入れられないのかなと少し残念に思いました。故障の原因は日の裏車の中心穴に入る地板の心棒(T字型で寸法は長さ0,97mm・直径0,50/0,245mm)が折れている為に、筒カナ車と深く噛み合ったのが止まりの原因でした。旋盤で別作して、すぐ直しました。

こんな簡単な修理も最早、他の時計店では出来ないのかと思うと愕然?としました。
これからは弊店で時計を買わせて貰うと言っていただきとても感謝されました。やっぱり時計店である以上、販売力も重要ですが、自前で修理出来ることは大変大切な事であると実感した次第です。