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2007年01月21日

●第63話(テンプ(天府・人間の心臓部分)について)

ヒゲゼンマイには、平ヒゲ(殆どの時計はこれです)・巻き上げヒゲ(またの名はブレゲヒゲ。ロレックス・IWC等の高級腕時計・懐中時計が使用)・提灯ヒゲ(マリンクロノメーターに使用)等があるように、テンプにもいろんな形状のものがあります。

チラネジ無しテンプ(またの名を丸テンプ)・チラネジ(またの名をミィーンタイムスクリュウ・マイクロステラとも言う)付きテンプ(高級腕時計用。片重り検査の時、チラ座を入れたりネジ頭を極細ヤスリで削ったりして調整します)・切りテンプ(天文台コンクール等に使用。天輪が二ヶ所切れています)などがあります。高級腕時計に使用されていた切りテンプは、自己補正ヒゲゼンマイの登場により姿を殆ど消しました。

テンプのアーム(腕)には2本の物が殆どですが、4本の物もあります。以前にはスイス・ウィラー腕時計のテンプのように渦巻き状のものがあり、アーム自体が耐震性能を備えているものがありました。機械式が全盛の頃、腕時計に衝撃を与えたり固い所に落下させたりすると、天真ホゾ(直径0,06~0,08mm)折れ・曲がりの為に天真入れ替え作業・及び旋盤にての天真別作作業が頻繁にありました。

国産の安価な腕時計は摩擦式が多く、ポンス台で天真をテンプに打ち込むだけで留めるものでしたが、スイスの高級時計は天真にカシメ部(ツバ)があり、旋盤で取り除いてからテンプにはめ込んでカシメるという面倒な作業がありました。下手で横着な時計職人はカシメ部を旋盤で取り除かないで、いきなりポンス台で打ち抜くために天輪の横ブレが起きてしまい、そのような難物を預かると時間が余計にかかったものです。

天真入れ替え後には横ブレ・縦ブレをテンプ振れ見器で完全に除去しなければなりませんでした。また、それと同時に片重り器でテンプのバランスを完璧に取らないと姿勢差が大きく出たものです。今では殆ど天真入れ替え作業はアンティーク(耐震装置が付いていないため)以外はなくなり、テンプ一式(ヒゲゼンマイ・天輪・振り座・振り石付き)取替になってしまいました。

時計店の技術者の技量を信じていないものなのかどうか解りませんが、その方がメーカーにとって部品の単価アップになり、メーカーのエゴが強く出ていると感じます(良心的なIWCなどはヒゲゼンマイのみでも売ってくれますが、とても高価なものです。しかしながら完全に調整してあるのにビックリ致します。何ら手を加える必要がありません)。脱進機(ガンギ車・アンクル)調速機(テンプ・ヒゲゼンマイ)の微調整が出来れば、もう一人前の時計師と言えるでしょう。