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2007年01月21日

●第61話(最近のスイス時計メーカーの動向について)

約30~40年前の掛時計・置き時計と言えば、1週間巻き・2週間巻、長くて30日巻のゼンマイ仕掛けで動く機械式ばかりでした。止まったら踏み台・ハシゴを持ち出して柱時計のゼンマイを巻くのが世帯主の仕事であり、面倒くさく(30日巻ですとゼンマイを巻くのが女性の人ですとかなり疲れるものです)でもあり又、手のかかるのが楽しみでもありました(軽い地震などで柱時計が傾くと方振り現象で止まったり誤差がでたりする事もありました)。

腕時計では手巻きか自動巻がメインで、ごく一部に電池を動力源にした電気腕時計がありました。自動巻腕時計の場合、はずしたら約40時間で止まってしまい、月曜日の朝に時間を合わせるのが日課となり、誰もが苦もなく習慣として何の煩わしさもなくやっておりました。

又、メカ式はメンテナンスをしっかりやらないとすぐ故障し、止まったり壊れてしまうとても繊細な機械だと暗黙の内にみんなが解っておりました。3~5年に一度の分解掃除はやって当たり前で、維持費がそれなりにかかるものだと解っておられました。
時間の緩急針調整にお客様はよくご来店されたもので、店とお客様との交流は一杯あった のです。その頃の時計店はそういうお客様で終日中、本当によく賑わっておりました。

しかし、約25年前から正確なクォーツの時代になり、使用者にとって腕時計は全く手のかからないものになり、針を合わせたりゼンマイを巻いたりする手間が殆どなくなってしまいました。その為にお客様の時計店への出入りが電池交換・バンド取替以外は無くなってしまったのです。時計店の1日の来店客数は昔と比較して、どの店も大幅に減少しているのが現実だと思います(私がこの業界に入った頃、日本には4万軒の時計店がありましたが、今では1万軒まで減っていると聞き及んでおります。私が育った長浜市(人口5万人)では約30年前には20店舗の時計店が盛業中でしたが、今では数店舗まで減っています。父の店よりも立派だった長浜一のI店、Y店も現在では存在しません。私が住んでいる人口7万人弱の松任市内にも僅か時計店は5軒しかありません。寂しいなー)。

クォーツに慣れきってしまった若い消費者の方々が、人気が沸騰してきた機械式を初めて持たれますと、いろいろと戸惑いを感じれられるようです。弊店でもロレックス等のメカ式を売りますと、あらかじめよく説明しておいても、殆どの方から下記の同じ様なクレームが舞い込みます。一番多いのが時間が狂う・すぐ止まってしまうというものです。使用状態を聞いてみますと、腕につけている時間が短かったり、腕を動かすことが極めて少ない事務系の仕事がメインの方に多いみたいです。

テニス・ゴルフ・野球等の激しいスポーツをされますと、一時的にテンプの振り当たり現象(振り座がアンクルクワガタに当たる)が起き、歩度が急に進む事になったりします。また、クォーツに慣れているので日差が3~5秒狂う(機械時計としては優秀な方ですが)と大金を出したのに何でこんなに狂うのかと大騒ぎになってしまうのです。
後でよく、こんこんと説明すると解っていただけるのですが、もっとメカ式についてメーカー・時計店は啓蒙しなくてはならないと思う今日この頃です。

最近、8日巻以上のロングパワーリザーブの腕時計がスイスの各時計メーカーから発売されビックリしております。ショパールでは香箱を2個内蔵した9日巻手巻腕時計を開発し売り出しました(217万円)。パテック・フィリップも香箱を2個内蔵した10日巻手巻腕時計を開発し売り出しました(370万円から)。IWCも8日間駆動する自動巻腕時計ポルトギーゼを出しております。これは、従来通り1個しか香箱がないかわりに、長いゼンマイと輪列に1個歯車を余計に使っております(125万円から)。
エベラール(49万円)、パルミジャーニ・フルーリエ(328万円)も8日巻手巻き腕時計を開発し売り出しております (ゼンマイ全巻のトルク最大時、どういう仕組みでテンプの振り切り・振り当たり現象が起きないのか中のムーブメントを検証してみたいです)。

スイス時計メーカーの機械式腕時計にかける意気込みには驚嘆させられます。こんな時計ですと、メカ式であれ、金曜日に腕からはずしていても月曜日には動いていることになります。お客様の苦情もきっと減るでしょう。しかしながら何と云っても値段が張るのが唯一の難点でしょう。私もこれらの時計がせめて30万円前後で購入できたら1個は所有したいのですが、何とかならないものでしょうか。30万円でも決して安くはないと思うのですが。スイスの最近のメカ時計は素晴らしいの一語につきますが、0が一個多いのが残念です。