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2007年01月21日

●第43話(時計職人の要望と期待)

弱冠24才でCMW資格を取得した私は、当時父の時計店を手伝っておりました。アメリカのベンラス時計に留学出来なかった私は、どうしても海外に出て腕を磨きたいと いう夢があり、カナダのロレックスサービスセンターに手紙を出し就職を依頼しました。

私の友人の竹内一詔氏(CMW)もカナダのバンクーバーで時計職人として働いていたからです。快諾を得ましたが、いろんな反対に遭い断念せざるを得ませんでした。
それじゃ日本のどこかのサービスセンターに入ろうかと思いましたが、それもいろいろ考えてやめました。サービスセンターに入った場合、一つか二つのメーカーの腕時計ばかりする事になり、単調になって飽きてしまうのではないかと思ったからです。
いろんなメーカーの腕時計(掛け時計・置き時計の修理も大変好きでした)の修理を したかった私は、そのまま時計店で修理の腕を磨く事に専念しました。

手引き書(マニュアル)通り何も考えずに分解組立するよりも、パーツの役目等試行錯誤しながら分解・組み立ててゆく方に時計職人としての醍醐味が味わえると思ったからです。複雑時計になると部品数が200前後になる為にスケッチをして忘れないようします。組み立てる時はまさしく2000ピースのジグソーパズルをとく心境です。考えながら組立調整するのは時間がかかりますが、その時計の持ち味がよくわかります。

先日も少し水の入ったセイコークルージングマスター7k36A(多軸9針、定価10万円の品、発売後5年くらいで生産中止か?)の修理依頼を受け分解掃除をしましたが、組立部品数92個と、クォーツとしては割と多い方で厄介な難物でした。出来上がった時は疲れてはてて感動はありませんでした。メカ時計で難物の場合、やはり疲れますが修理完了時には必ずいい知れない喜びがつきまといます。

メーカーの設計技師の方には、このようなクォーツの複雑時計はもう作って欲しくないものです(我が儘な要求ですみません)。日本での時計職人として最高の評価を得ておられる日本時計師会元会長:井上信夫先生は、スイス・タバン社製の超複雑の自然打携帯時計(あまりの複雑さ故、著名などこの時計店、時計メーカーへ持っていっても断られた時計と依頼者は言ったそうです)の修理を頼まれ、数ヶ月かかって直されたことを以前、本に公表されましたが、その時の喜びは時計職人しか解らない身震いするほどの、ものすごいものだったと言っておられます。

難解なクォーツ腕時計の修理にはこういった感動はあまりないと思います。私も今まで数え切れないくらいクォーツ腕時計の修理を致しましたが、何ら感動、印象も受けません(どんな高価なクォーツ腕時計でさえ。まだテンプ式のエレクトロニック腕時計や音叉腕時計の方が感動したり感銘を受けたりします)。

接客して時計の修理を預かる時、どんな方がどんな時計を身につけているのかとても関心があります。また故障の具合を問診して尋ねるのも大切な事です。どんな使い方をされてるのか知る事により、故障の原因(どのような腕時計であれ、水・汗・磁気・衝撃が最大の敵ですが)等が推測出来るからです。読者の方も修理依頼する時は出来うる限り故障の状態を詳しく伝えるのがイイでしょう(サービスセンターに勤めているとそういう情報は手に入りにくいかも知れません)。

以前卸商に聞いた話ですが、京都の少し落ちぶれた?(失礼)老舗の時計店に身なりのイイお客がぶらっと来店し、時計革バンドを購入されて、その時接客した店の修理担当の番頭さんがその客の腕時計を大変気に入り、サービスでケース・風防磨きをして上げたところ、いたく感動したそのお客さんは、それ以降その番頭さん指名で数年に渡り高額の贈答品を大量に注文したとの事です。そのお陰でその店は押しも押されぬ大店になり、現在大いに繁盛しているとの事です(そのお客さんは大手一部上場商社の社長さんだったらしいのです)。そういった出会い・ご縁が店をやっているとあるという事です。商売していると毎日気は抜けないですね。たとえどんな細かいお客様でも。