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2007年01月22日

●第292話(ア・シールド社のアラーム・ムーブメント)

東京都のI様から、修理依頼を受けた、
オーガスト・レイモンド・ルンバのアラーム機能付き腕時計は、アラーム腕時計の中では、最も複雑な多機能キャリバーでした。

このオーガスト・レイモンドの腕時計は、オールド・ムーブメントを搭載した腕時計で、I様が1年半程前に、購入されたものです。調子が芳しくなく送られてきました。このムーブメントは30年前に、ア・シールド社が製作した機械でこのムーブメントの詳細は下記の通りです。

Cal.5008、17石、外径30.00mm 、厚み7.60mm 、28,800振動 、ガンギ車歯数20でアラームのベル持続時間は全巻き状態で、おおよそ8秒前後、音量は68フォンでした。

今まで、いろんなアラーム機能付きの腕時計の修理調整をしてきましたが、このAS5008が、一番難度の高い修理調整でした。何故なら、このムーブメントは、デイデイトが瞬間早送り装置付きで、秒針停止装置もついており、一つの自動巻ローターで、右周りで輪列駆動ゼンマイを巻き上げ、左周りでアラームゼンマイを巻き上げる事が出来る最高のアラーム・ムーブメント(手巻きも可能)だからでした。(当時はリーズナブルな価格で発売されていたと思われ、ネジ頭の研磨、地板等にコート・ド・ジュネーブ、ベルラージュ仕上げ加工がしていないのが残念な所でした。)

セイコーにもかつて、ビジネス・ベルマチックというアラーム自動巻腕時計がありましたが、この時計は、アラームは手巻き式で、秒針停止装置も無く、デイデイトの瞬間早送り装置もありませんでした。シチズンアラーム腕時計や、バルカン・クリケットは、手巻き式アラームの為、修理作業もそんなに神経を使わずに済みますが、AS5008は、部品数も半端な数では無い為に分解しながら図面を書いて作業をしました。

30年前のオールドムーブメントをオーガスト・レイモンドが採用している為に、発売するまでに自社で修理調整をしていた形跡が所々ありました。

ア・シールド社は、現在ではETA社に吸収されて、今では存在しないムーブメントメーカーですが、もしこのAS5008の設計図面・工作機械等が残存していたら、ゼニスエルプリメロのように見事に復活して、時計愛好家にもの凄い人気が起きたムーブメントであったものと思われ、その点、残念に思います。

AS5008には、いろんな派生キャリバーが誕生しています。AS5001は、手巻き式アラームムーブメントでした。AS5004とAS5005 は、アラームが手巻き式で、自動巻腕時計です。AS5007は、アラーム・駆動両方を自動巻タイプでしたが、曜日はついていませんでした。この AS5008に採用されている緩急針装置は、AS社がかって特許を得ており、この装置は、現在のETA社7750クロノ・ムーブメント等に採用されています。この緩急針装置は、容易に微細精度調整出来る優れものです。