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2007年01月22日

●第281話(プロへの厳しい道)

アマチュアとプロとの世界の中で、歴然と力量に差があるものに
将棋と相撲の世界が挙げられています。
学生横綱という名誉を勝ち得ても、プロの相撲の世界に入った途端、
幕下付け出しでデビューする事になります。
給与が貰える十両の関取集には、
一般的に歯が立たないのが普通だと言われています。

将棋の世界では、プロになる為には、東西の奨励会に入門して、切磋琢磨して
技量を磨き上げ、四段になって初めてプロとして世間に認められる事になります。
(加藤一二三元名人、谷川浩司現棋王、羽生善治現王位は十代半ばで
プロ棋士になっている事実は前代未聞の快挙と言えそうです。)
奨励会の二段は、都道府県のアマチュア名人クラスの力量を持っていますが、
そこから二段上のプロ四段になるのには、誰もが簡単になれる訳ではありません。
ごく選ばれた人にのみにしかなれないのです。

幼くして将棋の天賦の才能を持ち得たとしても、二段になるまでは、
ある程度行ける人が多いらしいのですが、そこから四段のプロになるには、
並大抵の努力や研鑽を費やしなければ達成出来ない、と言われております。
(アマチュアで有名な強豪の将棋愛好家でさえトップ・プロには大駒1枚・角を
落としてもらわないと対等には戦えない程です。
それ程プロとアマチュアには歴然と大きな差があるのです。)

神武以来の天才と謳われた加藤一二三九段(元名人)でさえ、名人位を
奪取するには、相当な幾星霜が必要とされました。
(加藤一二三九段は過去の対戦した棋譜をほとんど記憶されていて
その超人的な記憶力に驚いてしまいます。
1時間の考慮時間で100手先、200手先を読まれるのですからその思索力・判断力には天才と一言では言い表せないすごい潜在能力を持っておられるのでしょう。
NHK将棋早指し選手権で何回も優勝しておられる加藤一二三九段は
持ち時間が10秒を切ってから素速く妙手を指される明晰な頭脳を持って
おられることにも驚愕しています)
また『兄貴達はバカだからT大学に行った』と言って物議を醸した、
米長邦雄永世棋聖でさえ、加藤一二三九段と同じように名人位を奪取するには
かなりの年月を必要としました。
世間から、当代一流のプロと言われる人達は、充分な才能を持ち得ても、
並大抵の想像を絶する努力や研鑽を積み上げたからこそ
その地位を勝ち得たものと思います。

時計職人の世界に於いても、世間からプロとして認められるには、
各々時計職人が目標や夢を設定してそれを、
達成するべく、日々の作業に努力を打ち込まなくてはならない、と思います。
特に、作業をする上で、『これでいいや』と中途半端な自己満足をしてしまえば、
その職人の腕前は一向に向上するものではありません。
手抜きをしない、妥協しない、トコトン自分の満足出来るまで作業をするという、
心構えが毎日、毎日必要だと思います。

時計修理技能士試験や、CMW試験を合格するのは、
あくまでもプロの世界に入った、
という自覚以外の何物でも無いはずです。
将棋の世界で言えば、技能試験に合格した時点で、初めて四段になれた、
というものだと思います。
近江時計学校や、ヒコミズノ時計学校の卒業時点では、将棋の世界で言えば、
二段に相当するものと思いますのでさらに研鑽を積み上げて、四段になるべく、
努力をして頂けたらと思っています。
(最終目標はやはり井上信夫先生、菅波錦平先生等の時計職人九段クラスに
なって欲しいと思います。)
世の中には、各分野に於いて、想像を絶する技能を持った職人がいるという事を
念頭に入れて、技能職のレベルアップの為に若い人達の時計職人さんには
今後更に一層、頑張って頂きたいと思っています。
各自の努力によって時計職人の全体の技術レベルが上がれば
機械式時計を愛する人々はますます増えていくものと思っています。