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2007年01月21日

●第277話(不思議な事)

神奈川県のK様から、お母様の愛用されている、 アンティーク・インターナショナル手巻婦人用腕時計(Cal.41 17石 ムーブo.1604943) の修理依頼を受けました。

このムーブメントは、以前にも十数回以上OHした経験があります。かつてのインターナショナル社のイメージ通り、手抜きした所が全く見つけられない 完璧な造りがされている機械です。婦人用手巻き腕時計で、ここまで、完璧に作られたムーブメントを内蔵している 腕時計を新品で入手する事は、現代では、大変難しいことになっています。

近年ドイツのランゲ&ゾーネ社が、婦人用手巻き腕時計『グランド・アーケード (定価1,950,000円)』を発売しましたが、これに搭載されている、 ムーブメントに劣らない程の造りをされている腕時計です。 造り映えも少し似ている感じがします。

オーバーホールを完了し、ケースを超音波洗浄で洗いましたところ、 裏蓋に日本の大蔵省造幣局シンボルの日本国旗のマークと、Pt900と、刻印されていて驚きました。 スイス製腕時計で貴金属を素材として、ケースを作られている場合、 K18イエローゴールドとK18ピンクゴールドがメインです。 白色貴金属ケースはほとんどが、K18金ホワイトゴールドを素材として作られています。まれにプラチナを素材としたケースも無い、という事はありませんが、 非常に珍しいものです。

日本に、造幣局検定マークがあるように、スイスにも、各州に 『ホールマーク認定検査局』があります。各州毎に、特徴のある女性の横顔の刻印がケースの裏側に押さえ刻んであります。 このK様のアンティーク・インターナショナルに、スイスのホールマーク認定検査局の印が無いのが不思議な気がしました。

恐らく、日本女性は昔からホワイトゴールドよりも、プラチナの嗜好が強い為に、あえて日本人女性向けに、あくまで想像ですが100本ないしは、200本を制作して、このケースの検定依頼の為に日本大蔵省造幣局に持ち込んだものと推測しています。 非常に、まれなパターンではないか?と思っています。

日本大蔵省造幣局は、ある貴金属メーカーから聞く所によりますと、 検定依頼を受けた商品が100本あるとしますと、無作為に2、3本取り出して、それを溶解、分析して、それ相応の純度が適量に 含有されているか調べるという事です。無作為の2、3本を調べてそれが適切な場合、残りは間違いないと判断して 刻印するシステムです。

プラチナ加工技術に於いて、日本の加工技術レベルは世界トップクラスなので、 日本でこのインターナショナルのケースを当時の日本輸入総代理店、シュリロ・トレーディング・カンパニー・リミテッドが日本女性向けに、 日本でこのケースを作った事も考えられない事は無い、と思います。それにしても面白い不思議な事実でした。