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2007年01月21日

●第271話(アンティーク、パティック・フィリップの修理依頼)

読者である徳島県のI様から、パティック・フィリップ手巻腕時計 (Cal、23-300 18石 ムーブナンバー1212874  おそらく1966年製?だと思われます)の修理依頼を受けました。 I様のお母様は小生と同じ滋賀県長浜市出身で、I様の祖父にあたる人が真宗の有名な古刹・大通寺・東別院の裏で医院を開業されていたとの事でした。

「祖父を磯崎さんはご存じかも知れません。」と言うメールを頂きました。パティック・フィリップの修理依頼は時々お受けするのですが、パーツがなかなか入手できない場合が多く、お断りしているのが実情です。オーディマ・ピゲのパーツは弊店取引先のT時計材料店でほとんど入手可能なのですが、パティック・フィリップは入手できたとしてもパーツ代がとても高く、時間もかかる為、お客様にお断りしているのです。

以前にパティック・フィリップの修理依頼を受けた時、 あちこちのパーツが摩耗・損耗している為に交換する必要があり、 パーツを取り寄せる手配をかけたところ、パーツ代のみで20万近くかかった 記憶がある為に、今回のご依頼もお断りしたわけです。

I様へ、その旨をメールで返事し、「I様の祖父に当たる方の医院はM医院ではないですか?」とお聞きしましたところ、「磯崎さんの記憶通り、祖父の病院はM医院です。」とメールで返事を頂きました。 M医院は50年も前から珍しいコンクリート2階建ての病院で壁には蔦が生い茂っていて北 杜夫氏の小説に出てくるような雰囲気のある建物でした。

M医院のM先生には小生が子供の頃から風邪をひいた時や病気になった時に往診までして頂いて、治療をしてもらった記憶が鮮明にありました。私の兄弟5人もいろんな病気になった時にM先生に治して頂きました。その先生はもうすでにお亡くなりになられて30年も過ぎているとのことで、その形見と言える大事な腕時計を孫であるI様が大事に持たれている事を聞き及んで、何とかしてこの時計は自分が直さなくてはいけないと思った次第です。 (20年間はこの時計を使用されていないとの事でした)

M先生は厳格な風貌で、子供心にも近寄りがたい存在の先生でしたが、目の奥には優しい眼差しのある方でした(小生の恩師でもある行方二郎先生に風貌が似ていたような気がします)。 M先生のやさしいお言葉一つで回復に向かったような神通力のある先生でした。インターネットで仕事を始出して、こういう深いご縁のある方々と巡り会える事は とても懐かしく嬉しい事でもあります。

一度はお断りしたのですが、修理をお受けする事をお伝えしたところ早速、 I様からの修理依頼のパティック・フィリップが届きました。裏蓋を開閉する溝が少し特殊な形で、弊店所有の裏蓋開閉器では開けることが出来ず、開ける爪を修正加工してやっと開ける事が出来ました(裏蓋のパッキングが液状化しており、また錆びていた為に容易に開ける事が 出来なかった訳です)。

開けてみてびっくりした事には、素晴らしい光芒を放つムーブメントが しっかり収められていて、何としてでもこの腕時計を 生き返らせなければならないと思いました。 修理が出来上がりましたら、HP上で読者の皆様にご紹介したいと思っております。