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2007年01月21日

●第255話(フランクミューラーはどこへ行く?)

現代が生んだ天才時計師、フランクミューラー氏が自ら創業した、『フランクミューラー社』を出たのは、どうやら事実の様です。敏腕な経営手腕のあるヴァルタン・シルマケス氏と彼が手を組んでフランクミューラー社を立ち上げてから10年そこそこで世界中にファンを持つ、一大時計メーカーになった事は、前例を見ない希有な成功事でした。

フランクミューラー社は昨年度、好業績を挙げ48,000本ものフランクミューラー腕時計を売りまくり、売上高300億円という、時計メーカーとして巨大企業に のし上がったのです。創業当初は、お互いの良いところを認めあい、経営手腕の優れたヴァルタン・シルマケス氏をフランクミューラー氏も相棒として認め、ヴァルタン・シルマケス氏は、フランクミューラー氏を時計技術者として 最高の賞賛を与えていたものと思います。

創業当初のお互いのひたむきな情熱と世に打って出るというがむしゃらな情熱が巧く噛み合った時は順風満帆に事が運んでいき、上手く右肩上がりの軌道になったのでしょう。シルマケス氏は、会社の経営を任されていたので、会社内での自分の地位を盤石のものとし、自分の息のかかった優れた部下達を育て上げ、経営中枢を自分のブレーンで固めていったものと思います。

一方時計技術者のフランクミューラー氏は、一、二年ごとに世界中の時計愛好家が 驚嘆する様な新機構の腕時計の開発に没頭していて、なかなか経営の体質及び業績内容等がうまく把握出来ない為に徐々に経営陣から疎外される立場に 追い込まれていったものと推察しています。

昨年から両氏がお互いに訴訟をおこし、裁判沙汰になっており、 第三者から見れば泥試合の様相を呈してきているのは残念な事です。 (組織対個人の争いになっている状況では、フランクミューラー氏の方が 一方的に不利な様な気がします。)

なんといっても一番の被害者はフランクミューラー腕時計を買ったユーザーの方々で、フランクミューラーのイメージが悪い方に大幅にダウンして、困惑されているものと思います。一部にETAベースのムーブメントを搭載しているフランクミューラー腕時計でも、 100万円前後という高額商品ですので、あの独創的なデザイン、フランクミューラー氏の魂に共鳴を覚えて購入された顧客の方々は、慚愧の念に耐えないような気持ちに陥っているのではないか、と思います。

彼ら二人が、何故そこまでこじれた関係になってしまったのか?と言えば、会社内での権力闘争及び、金にまつわる利益配分の取り分、経営の舵取りによる意見対立等も大きな原因なのではないでしょうか?お互いに犯してはならない領域に口を挟むことによって、深い亀裂と断裂が おきたものと思います。

言い換えれば、フランクミューラー氏は経営にタッチしないで、時計開発に専念し、 ヴァルタン・シルマケス氏も腕時計開発に口を挟む事なく、 経営に専念しておれば、このような事にはならなかった気がします。

(本田技研工業が、世界のホンダとして大飛躍したのも経営に優れた藤沢武夫氏が おられ、技術開発に専念できた本田宗一郎氏という優れた技術者との 二人三脚のタッグが上手くいったからなのでしょう。)

この問題は、時計業界にとって大きな出来事であり、再度仲直りする事は非常に難しい状況と思われますが、なんとか二人が和解して円満解決の方法を見つけてくれる事を祈ってやみません。そうでなければ一番の犠牲者はフランクミューラー氏でもなくヴァルタン・シルマケス氏でもなくフランクミューラー腕時計を愛する お客様なのですから。