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2007年01月21日

●第253話(耐震装置・押さえバネ)

腕時計の心臓部であるテンプの上下ホゾには、 衝撃やコンクリート上への落下によるショックから守る為に、耐震装置が装備されています。天真の先端のホゾの直径は0.06mm~太いもので0.12mmぐらいしか無い為、耐震装置が無い時代においては、落下による天真が折れがあり天真入れ替え作業という修理が多かったものです。(懐中時計にはほとんど耐震装置が付いていないために旋盤にて天真ベッサクして天真入れ替えをよくしたものでした。)

耐震装置が腕時計に取り付けられる様になって、天真折れという故障は極めて、 少なくなりました。

世界の腕時計に広く採用されている、耐震装置に『インカブロック(鼓の外形に似ています)』があります。これは、『耐震穴石』と『耐震受石』と『耐震押さえバネ』から構成されていて、テンプに強い衝撃が加わると天真が動き、受石・穴石がそれに伴って上下左右に動き、 押さえバネが衝撃を吸収する様に、なっています。

あまりにも大きな衝撃が、加わった場合、押さえバネで、吸収しきれなくて、押さえバネがショックで外れてしまうという事があります。お客様の修理依頼の中で、落として急に止まった場合、昔は天真折れが多かったのですが、今では、押さえバネが外れて、受石・穴石が飛び出してしまうという故障も起きます。(1年間に数回はこのような故障に遭遇します。)

セイコー社の耐震装置は、『ダイヤショック』が有名ですし、 シチズン社では『パラショック』がよく知られている所です。

スイスのオメガ社等の高級腕時計製造会社の多くは、『インカブロック』を 採用しています。 インカブロックは効果が高く、非常に作業がし易いために今では多くのメーカーが この方式を採用しています。

ロレックス社は、1500系のムーブには、『フラワーKIF(花びらの形に似ています)』 が採用されていましたが、現在では、『ニューKIF (近鉄バッファローのエンブレム形に似ています。)』が採用されています。 以前のオリエント時計には、『ニュートロショック』が採用されていました。 ETAの普及版Cal.2824-2には、『KIF.プロテショック』が採用されています。

このタイプは、『ダイヤショック』に似ていて取り付けが易しそうに見えても、 意外と手こずる方式で、少し職人泣かせのタイプと言えるかもしれません。

その他には、今では、ほとんど見受けられない耐震装置・バネに『アンチショック51』、『ビドリングマイヤー』、『コントラショック』、『デュオフィックス』、『フィックスモビル』、『ジロキャップ』、『レソマチック』、『ルファレックス』、『シムレックス』、『トリショック』、『ユニセーフ』、『ユニショック』、『ビブラックス160』、等々がありましたが 市場から淘汰され消えて行きました。

各押さえバネは極めて薄く細く作られているために神経を集中して作業をしないと いけません。 余分な力が加わればすぐに折れてしまいますので繊細な作業と言えるかも知れません。